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サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
聖地ウェンブリー「今日はもう勝てない…」イングランドサポーターが帰宅して空席だらけに…カメラマンが現地で見た日本代表“歴史的初勝利”のウラ側
text by

原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2026/04/05 11:02
コール・パーマーのボールを奪う伊藤洋輝と中村敬斗。チェルシー所属の名手に決定的な仕事をさせなかった
「今日は勝てない」聖地ウェンブリーが空席だらけに
ウェンブリー・スタジアムは「サッカーの聖地」と言われる。筆者は今回の試合で初めて訪れることになったが、スタジアムに近づくと、たしかに「ここが聖地だ」という高揚感があった。1966年のW杯決勝も含め、1923年から繰り広げられてきた数多の試合については、リアルタイムではほぼ何も知らない。2007年に建て替えられて見た目は新しい。外観には今どきのLEDボードが目立っている。それでも、「聖地に来たぞ」という感慨を抱いた。
なぜなのか。駅からまっすぐ続く道の先にスタジアムがあるという景色や、道中の装飾といった見た目のインパクトだけではない。誰もがここを聖地として認識しており、「聖地に来た」という振る舞いをしているからだ。スタジアム正面に建てられたボビー・ムーア像の前では、たくさんの人が記念写真を撮っている。
Instagram用に工夫をしながら撮影している若い人たちのなかに、ボビー・ムーアのプレーを知っている人はどれだけいるのだろうか。だが、それで構わないのだ。今の時代の人にとってはただの撮影スポットのひとつだが、日常に溶け込んだ伝統はそんな些細なことで繋がってゆく。次にボビー・ムーアという名前を見聞きしたときに「あ、ウェンブリーにあった。昔のすごい人でしょ?」となるだけで十分だ。やがて、それは自然と伝統としての重みを持つようになる。
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そしてイギリスは、大衆に浸透してきたものを「誇り」に変換することが上手い。
イングランドと日本の試合開始を目前に、ウェンブリーではLED照明や特殊効果を使った派手な演出が行われた。伝統的なスタイルとはかけ離れた盛り上げ方だが、そこで使われていたのはOasisの曲だった。広く浸透した「自分たちの文化」を用いて、ハレの舞台の雰囲気を効果的に作り上げていた。
試合終盤。そんなスタジアムの客席が、みるみる赤い空席に変わってゆく。ウェンブリーは帰りの混雑を嫌って早めに帰る人も多い、とは知っていたが、いくらなんでも多すぎる。その光景には重みがあった。些細な当たり前の積み重ねによってサッカーが日常生活に溶け込んだ文化となっている国の聖地だからこそ、観客たちのシビアな観戦スタイルは「今日は勝てない」という結果を先取りして物語っているかのようだった。
<続く>


