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サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
聖地ウェンブリー「今日はもう勝てない…」イングランドサポーターが帰宅して空席だらけに…カメラマンが現地で見た日本代表“歴史的初勝利”のウラ側
posted2026/04/05 11:02
コール・パーマーのボールを奪う伊藤洋輝と中村敬斗。チェルシー所属の名手に決定的な仕事をさせなかった
text by

原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
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これはたぶん、本当に勝ってしまうのだろう。
パワープレー要員かのように投入されたハリー・マグワイアと渡辺剛の競り合いが終わり、ふとファインダーから目を離してスタジアム全体を視界にとらえると、一気にその実感が込み上げてきた。
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約8万人が詰めかけていたはずのスタジアムに、赤色の空席があからさまに目立つようになっていたからだ。
ロンドンの超老舗パブで体感した「伝統」
個人的な話だが、筆者は旅が好きだ。スポーツフォトグラファーという各地に赴くことができる職業との相性も抜群だが、そのせいで遠征が黒字になることはほぼないのが、悩ましいといえば悩ましい。
旅をすると、様々なタイプの「伝統」を感じる経験をする。それは現地でも「伝統的なもの」として扱われる、いわゆる“ハレのもの”だけではない。街並みそのもののような、見るだけで了解できる類のものや、ガイドマップや博物館の展示のような、情報を知ることでそう思えるようになるものもある。
しかし、最も多く経験するのは、そして個人的に旅の醍醐味だと思えるのは、「なんとなくだが確実にそれを感じる」という、場の雰囲気が脳に直接訴えかけてくるタイプのそれだ。
スコットランド戦とイングランド戦の間にロンドンで巡ることができた場所のなかに、1666年のロンドン大火で焼け、1667年に再建されて今に至る「Ye Olde Cheshire Cheese」というパブがあった。リアルエール(ガスを入れていないビール)を堪能しながら、ふと思った。「伝統を感じる」というのはどういうことなのだろうか。もし、この建物の外観や内装といった見た目や、1667年からあるという歴史的な情報がなければ、果たして本当に伝統を感じるのだろうか。
隣のテーブルには地元のお爺さんたちがいた。店員との挨拶からして、おそらく毎日のように来ているのであろう。たわいもない話をしながら同じビールをスローペースで飲んでいる。筆者は雰囲気を堪能しながら3杯も飲んでしまったが、その間にお爺さんたちのビールは半分ほどしか減っていなかった。
アウェイの地で感じる伝統とは、決して古いものを指すだけではない。今そこにある生活の中にも、それを見つけることができる。ほんの些細なところ、現地では「当たり前」として日常に溶け込んでいるものの中に自分の文化圏との違いを感じたとき、異なる歴史や文化の積み重なりを感じるのだ。



