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「このまま終わったら…一生言われる」箱根駅伝で“山の神”に「抜かれた」ランナーたちは何を感じた?「キツいとか、しんどいとかはなくて…」
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2026/01/18 06:01
2009年の箱根駅伝の5区で東洋大1年生だった柏原竜二に逆転された早大4年の三輪真之。果たして間近で「神」を見た胸の内は…?
三輪の横に並んだのは、東洋大の1年生、柏原竜二だった。三輪は述懐する。
「康幸さんから声がかかっても、後ろを振り返ることはなかったので、柏原君が本当に来ているかどうか分かりませんでした。気配を感じて横を見たら、突然並ばれたので本当にびっくりしました。そこからいったん離され始めたんですが、『このまま終わってしまったら、一生言われ続ける』と思って、必死に前を追いかけました」
三輪は1年生の時に10区を走り、9位でたすきを受けたが13位となり、早稲田はシード権を逃してしまった。そして前年の08年には9区で首位を走行したが駒澤に逆転を許し、総合優勝を逸してしまった。このまま引き下がるわけにはいかない。
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三輪の意地が炸裂する。
「最後の上りが終わり、下りに入ってから死に物狂いで体を動かすと、柏原君の背中がだんだん大きくなってきました」
「しんどいとか、そういう気持ちはなくなって…」
三輪は19.2km地点で抜かれたが、20.8km地点で柏原に追いつき、そして抜き返したのだ。
「キツいとか、しんどいとか、そういう気持ちはなくなっていました。あとで映像を見ると、自分はよだれを垂らしながら走ってるんです(笑)。もう、無我の境地でした」
ところが、平地になってから柏原の背中が再び遠ざかり始めた。
「柏原君は平地も速いんだった。そう思い出していました。最後の交差点を右に曲がり、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
三輪は両手を合わせながらフィニッシュした。柏原がテープを切ってから22秒が経っていた。箱根駅伝100回の歴史のなかで、最もドラマティックな区間と言っても過言ではなかった。
◆
2010年。中央大学3年の大石港与は、2度目の山上りに挑もうとしていた。
<次回へつづく>

