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「漠然と打っていた今までとは違う」プロ8年目に開花した昨季、カープ中村奨成が掴んだ“理想の打撃”の構築方法とは
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前原淳Jun Maehara
photograph bySankei Shimbun
posted2026/01/05 11:00
昨季は実質キャリアハイの成績を残した中村
「後半ずっと試合に出させてもらっていいものを出せたので、これは(方向性が)間違っていないという認識でいます。まずは落とし込むこと。ただ、同じことをやっても、25年と同じ結果になってしまう。加えて、打てなかった投手にどうアプローチしていこうかなと考えながらやっています」
進化を続ける世界で生きる者として、現状維持は退化を意味する。
打撃フォームの完成度を上げつつ、新たな感覚も探っている。昨季10打席以上対戦し、打率0割台に抑えられた投手がふたりいた。巨人の山崎伊織とDeNAの東克樹だ。山崎には14打数1安打で打率.071、東には20打数1安打で打率.050だった。苦手とした2投手との対戦成績をのぞけば打率は3割を超える。ほかに9打数1安打に抑えられたDeNAの平良拳太郎らも含め、試合のないオフは打ち取られた残像と戦っている。
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もともと“感覚派”を自称するほど打席の記憶力は長けている。24年までは消し去りたいような悪い感覚ばかりが残っていたが、昨年は悪い感覚よりもいい感覚の方が多かった。だからこそ、より詳細に振り返るためノートに書き留めるようになった。
「僕、理論とか無理なので。いい感覚、悪い感覚というのは体が覚えているけど、自分の体も変わるので何かに残しておかないと。たくさん試合に出させてもらったけど、こういう感覚で打っていたなというのは全部書いています」
ひとりで練習に取り組む理由
ひとりでバットを振るオフもノートを開く。よみがえってくる打ち取られた記憶が、中村を練習へと駆り立てる。
「だから、ひとりでやりたいんです。誰かと同じメニューをやるのも大事ですけど、昨年あれだけ試合に出させてもらったので、自分にしか分からないものも出てきた。漠然と打っていた今までとは違います」
飛躍のきっかけをつかんだ昨季、中村の根底にあったのは危機感だった。入団時からポジションも背番号も変わり、立場も変わった。結果を残せなければ後がないという崖っぷちに立たされ、這い上がった。今年もまだレギュラーが確約されているわけではない。危機感が薄れては足をすくわれる。
「外野手はたくさんいる。自分が隙を与えてしまったら誰かにチャンスが回るし、そこで結果を出されたらまた自分が出られなくなる」
25年の経験は満足感を与えるどころか、飢餓感を強める糧となった。チームは7年続けて優勝を逃し、2年連続Bクラスと過渡期にある。3連覇時にはタナキクマル(田中広輔、菊池涼介、丸佳浩)らの世代が中軸を担ったように、昨季2冠の小園海斗や坂倉将吾とともに中村にはチームの新たな中軸となることが期待される。自身に欠けていた経験を得て、ようやくそのスタートラインに立った。
