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格闘技PRESSBACK NUMBER
佐山聡「お前、俺の顔を殴ってみろ」“地獄のシューティング合宿”壮絶スパルタ特訓の知られざる全貌…「ウァ~ッ」「グアァ~」現地で聞いた“悲鳴”
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph byMoritsuna Kimura/AFLO
posted2025/12/25 11:41
天才プロレスラーにして、総合格闘技のパイオニアでもある佐山聡。現在、世界中で使用されているオープンフィンガーグローブを考案した
何を隠そう、質問した佐山自身も10-6+2が「8」であることに疑問を感じていなかった。練習後、その答えが間違っていたことを告げると、佐山は「そうだよ、6が正解だよ」と照れくさそうに頭をかいていた。
極限状態に身を置いているときの人間は、明らかに間違っていることでもすんなりと納得して、受け入れてしまうのだ。10-6+2が8であっても許される世界があることを、そのとき筆者は初めて知った。
「精神的なこと、これも技術のうち」名言の真意
実際のところ、このとき佐山が求めていたのは「正しい答え」ではない。ここぞというときにアドレナリンを最大限に分泌し、自らの精神状態をコントロールすることの大切さを教えようとしていたのだと、いまなら理解できる。
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試合という極限の状況下でいかに自分の力を発揮するか。もちろん技術も大切だが、どちらかが小さなミスを犯した時点で負ける拮抗した場面においては、アドレナリンを分泌したうえでの集中力や冷静さが必要になってくる。
このとき、佐山は次のような説明をした。
「プロでやっていくにはそれだけの精神力が必要だ。技術だけ発達しても無理なんだよ」
そして参加者たちに質問を投げかけた。
「いまの日本のスポーツは弱い。なぜだかわかるか? 技術は昔よりずっと上がっている。でも昔の方が強いんだ。自分でやる気を高めること。それも“技術のうち”なんだよ」
精神的なこと、これも技術のうち――いまや佐山の「名言」として定着したフレーズだ。補足すると、90年代を迎えたばかりの日本は、スポーツにおける国際競技力向上のための戦略的な取り組みが不足していると言われていた。
佐山の問いかけは続く。
「アドレナリンが上がるとき、どんな状態になるかわかるか?」
さらに佐山は、人を極限状態まで追い込んだ末に起きた殺人事件と、試合中の格闘家の精神構造には重なり合う部分があるという持論を展開した。
「犯罪を行うときの精神状態まで自分のテンションを高めることができたら、誰にでも勝つことができる」
しかし、格闘技はスポーツの範疇で争われているものであり、そこまで高める必要はないとも説いた。
「だからアドレナリンを使いながらも、冷静さを保たなければならない」

