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格闘技PRESSBACK NUMBER
「俺を舐めてんの?」「何撮ってんだコラァ!」佐山聡の“地獄のシューティング合宿”に密着…当時の選手「あの合宿はヤバい」記者が見た“驚愕の実態”
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2025/12/25 11:40
初代タイガーマスクの佐山聡。シューティング(現・修斗)の創始者として、総合格闘技の礎を築いた
「破壊力のあるキックを出すためにパワーはいらない。逆に力を抜き、思い切り長いキックを出しながら、ヒザを返すことが必要」
蹴りにしろ、パンチにしろ、必要以上の力が加わっていたら威力は半減してしまう。脱力したままモーションに入り、インパクトの瞬間を重要視する「抜きの蹴り」。その体得には一定以上のセンスとともに、相応の反復練習が必要だろう。
佐山はこの「抜きの蹴り」の技術を、外国人として初めてムエタイ王者になった藤原敏男の蹴りを見て会得したと思われる。佐山が人並み外れたセンスと身体能力の持ち主であることは疑いようもない。プロレス以外の別のスポーツをやっていたとしても、大成していた可能性は高い。
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しかしながら参加者の多くは佐山ほどのセンスも身体能力も持っていない。おそらく、佐山ならではの「抜きの蹴りはこうやってまっすぐ……」といった感覚的な言葉だけでは理解しづらかったのではないか。
テレビカメラも威嚇「何撮ってんだコラァ!」
そうした中、事件は起こった。指導のテンションが高まってくると、その矛先が佐山の一挙手一投足を追いかけていたテレビカメラにも向けられてしまったのだ。
「何撮ってんだコラァ! 撮るなっつってんだろこの野郎!」
そう言いながら、佐山はカメラマンに突っかかっていく。慌てたカメラマンは目を大きく見開きながら尻餅をつくように倒れ込んだ。体勢を崩してもカメラを落とさなかったのは、さすがプロとしか言いようがない。
道場の片隅で合宿の模様を観察していた足利工業大学付属高校のレスリング部員は、驚きと恐怖が入り混じった面持ちで佐山を見つめていた。
練習が小休止に入ったとき、筆者は小声で佐山に伝えた。
「佐山さん、いくらなんでもカメラマンにまでやるのは……」
すると、佐山はいたずらっ子のような微笑を浮かべながら答えた。
「んーっ、大丈夫。プロレス、プロレス」
周りの人間が本気で怯えていた暴挙も、佐山からしてみれば甘噛みのパフォーマンスだったのか。忘れてはいけない、佐山が大のいたずらっ子であることを。30年以上経った現在も、あのときの佐山とのやりとりと彼の微笑は脳裏にこびりついている。
だが、世に出回っている映像は合宿のごく一部に過ぎない。泊まりがけで取材を行った筆者が目の当たりにした、“地獄のシューティング合宿”の壮絶な実態とは……。
<続く>
