Number Web MoreBACK NUMBER
ドジャース山本由伸が証言「先生は僕を作った人です」伝説的リリーフの“重要人物”、矢田先生とは何者か? ドジャース球団社長「信じられなかった」山本の練習法―2025年下半期読まれた記事
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2025/12/20 11:01
ワールドシリーズ連覇を決め、肩を組むドジャース山本由伸と大谷翔平
「自らの行動と存在は分かちがたいものです。由伸は自然界が持つ力を自らの内に取り込み、それを超越する存在になろうとしているのです」
これは上位概念、哲学だろう。加えて、各論として次のようなアプローチをする。
「ひとつの筋肉を使うことは簡単です。由伸が目指しているのは、600の筋肉をそれぞれ10パーセントずつ使うことです。もちろん、600の筋肉を一度に意識して投げることは不可能です。重要なのは、どの動作を優先すべきかを学ぶことです」
ADVERTISEMENT
バーベルを使ったトレーニングをせず、可動域、バランス、しなやかさ、そして呼吸を意識する。
「自然界には自然なものがあり、スポーツ界には常識的なものがあります。世の中にはニュートン力学で説明できるものがたくさんありますが、由伸がやろうとしていることは東洋哲学で説明されるべきものです。だから共通言語を見つけるのが難しく、理解し合うのも簡単ではありません」
矢田氏は、自らの哲学がスポーツの常識とはかけ離れているため、外から見れば突飛に思われることも理解している。
「ただし、そこに本質があるのです」
球団社長「あれは最も感動的な光景だった」
こうした考え、哲学に触れると、『スター・ウォーズ』のマスター・ヨーダを思い出す。パッサン記者の原稿には、どこかオリエンタリズムへの憧れが混じっているように思えるし、YadaとYodaの類似性にインスパイアされたのかもしれない。
矢田氏は山本由伸の特質をこう説明する。
「彼は誠実であり、責任感が強く、真っ直ぐな人間です。そして、夢を見失うことがない」
パッサン記者は矢田氏の説く「夢」の意味について、こう書く。
夢とは単なる希望や願望ではない。
アスリートが自らの内側に眠る素材を掘り起こすために到達すべき『霊的な場所』へとつながる窓――。
そして第7戦、山本はただひたすらチームメイトと一緒に勝つことを願った。
フリードマン球団社長は、山本の投球を見て、こう思ったという。
「(9回途中から)3イニングを投げ切って、第6戦とまったく変わらない内容の投球を見せた。私がこれまで見たメジャーリーグの試合のなかで、最も感動的な光景だった」
予断を持たずに山本由伸、矢田氏を受け入れたドジャース。
この球団には、進取の精神が宿っている。
黒人初のメジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソンとの契約。
1958年には先陣を切って西海岸にフランチャイズを移転。
1995年、いまから30年前に野茂英雄と契約を交わし、日本人への扉を開いた。
革新、先進、そして寛容の球団である。
2025年、深淵な哲学を持つマスターと歩みを進めてきた「小さな大投手」が歴史に名を残した。


