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“女子初の快挙”へ…上谷沙弥はプロレス大賞MVPを受賞できるのか? 発表直前に聞いた“本音”「正直怖い気持ちも…女子プロレスの未来が変わる」
text by

原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2025/12/15 17:01
プロレス大賞MVP候補の上谷沙弥。12月29日には両国国技館で安納サオリの挑戦を受け、1月4日には朱里と東京ドームで戦う
「本当に、自分が29年生きてきた中での…」
上谷は考えをめぐらせながら話を続けた。
「この1年というのはプロレスだけじゃなくて、本当に、自分が29年生きてきた中での……。うーん、なんていうのかな。生まれてきて、器械体操やって、ダンスして、アイドルやって、ちょっとお芝居もやって、プロレスに入門して、それが実っていった。挫折も味わったけどな。想像もできなかったことが思わぬ形で、一つの花になった。黒い大きな花が咲いたんだ。ベルトを巻いて活躍するのは誰もが想像することだろうけれど、不思議だよね。こんなにもメディアに出ることができて、いろんな業界のトップの人とも出会えて、一緒に仕事ができる」
自ら頷くと、上谷は目を輝かせた。
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「気持ち、強くなっていると思うよ。やっぱり自分がやってきたひとつひとつの積み重ねが自信につながっている。発言したことが現実になっていく。しもべたち(ファン)がついてきてくれる。それが目に見えてわかる。そして、たくさんの人が力を貸してくれている。そういったことが、自分に自信を与えてくれるんだ。時には涙を流すこともあるけど。自信あるよ!」
年が明ければ、1月4日には東京ドームの新日本プロレスのリングで上谷が持つもう一つのベルト・STRONG女子王座と、朱里が持つIWGP女子王座をかけたダブルタイトル戦が行われる。上谷は2021年1月5日に東京ドームのリングに立っているから今回は2回目だ。
「あの時は東京ドームの広さに圧倒されていた。自分の代名詞だったフェニックススプラッシュを見てもらえたし、充実感があった。コロナ禍で、声出しも禁止だったけど。今考えれば、自分の経験も少なかったから8000人という数字を大きく感じた。でも今度は満員の5万人だからワクワクする。ドキドキが止まらない。そこには私が見たことがない景色が広がっているだろうから」
三冠か? 無冠か? その答えは2つの試合が終わってみなければわからない。上谷はまず両国で安納と戦う。感情をむき出しにして、別人のようになった安納と激しい試合をすることになるだろう。
「本当の悪夢を見るのはこれからだからな」
上谷はそう言うと、立ち上がって部屋から出ていった。



