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「ぼくはドジャースを愛しています」山本由伸の“心を揺さぶる英語スピーチ”舞台裏…ワールドシリーズMVP直後のメール「レッスンしてもらえませんか」
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熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byGetty Images
posted2025/12/16 17:00
ワールドシリーズ連覇を決め、ロバーツ監督と抱擁をかわす山本由伸
セレブレーションのあと、日本のメディアに囲まれた山本は、「去年、ムチャぶりされたんでスピーチの準備はしていました」と告白したが、サカモトさんはその準備にも深くかかわっていた。
「去年、大谷(翔平)選手に引っ張り出された由伸くんは、サンキュー・ドジャースファンと挨拶しただけでした。それが1年後にあれだけのスピーチをやったことは、英語を学ぶ人や海外で働く人にとってロールモデルになるんじゃないかと思います」
そう言って、サカモトさんはスピーチの舞台裏を明かしてくれた。
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ワールドシリーズの優勝が決まり、シャンパンファイトを終えた山本は、すぐに日本にいるサカモトさんにメールを送った。
「またスピーチを振られる可能性が激高なんで、ちょっと準備したいです。レッスンしてもらえませんか」
この時点でサカモトさんは感心していた。
「シャンパンファイトの直後に、スピーチのことが頭に浮かぶだけでもすごいじゃないですか。しかも疲れているはずなのに、ちゃんと準備したいと言うわけですから」
翌日、サカモトさんは5時間のフライトでロサンゼルスに帰ってきた山本と、1度目の打ち合わせを行なった。
はじめの言葉がスペイン語だったわけ
「これから一緒にスピーチを作っていくけど、それは恥ずかしいことじゃないからね。アメリカの大統領にも、スピーチライターがついているわけだから」
そう言ってサカモトさんは、温めていたアイデアを口にした。
「最初の挨拶は、スペイン語がいいと思うんだけど」
すると意外な答えが返ってきた。
「あ、それ、ぼくも思ってました」
いきなり意見が一致してびっくりすると同時に、うれしくなってしまった。
「レッスンではたまにスペイン語もやるんですが、それは同僚と仲良くなるためだけでもないんです。ロサンゼルスは人口の半分をスペイン語を話すラティーノ(中南米・カリブ海諸島にルーツを持つ人)が占め、ファンも多くがラテン系です。特に現在は移民に厳しい政策を打ち出す政権下で複雑な思いを抱えた人もいます。といってもアスリートに政治的、社会的な役目を背負わせようとは思っていないので、レッスンでそこまで踏み込んだ話はしていませんが、そもそも彼自身の性格として、誰かが置き去りになることへの想像力が豊かなんです」
実際に学生時代の山本は、登校中に捨て猫を見つけて家に連れて帰って遅刻したことがあったらしい。またレッスンでトム・クルーズが話題になり、サカモトさんが「彼はスタントマンに任せずに、自分で演じることが多いんですよね」と言ったところ、「スタントマンが仕事なくなってかわいそう」とつぶやいたことも。
「ロサンゼルスやドジャースが英語だけのコミュニティではないことが見えていたんでしょうね。そういう人だから自然とブエナスタルデスも浮かんだんじゃないかな」
そしてもちろん、あのフレーズを盛り込むことも忘れなかった。
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