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井上拓真の“エグいアッパー”で那須川天心の顔面が…カメラマンがとらえた決定的瞬間「ボクシングをなめるな」“ブーイングも飛んだ”現地ウラ側
posted2025/11/30 17:03
井上拓真とのWBA世界バンタム級王座決定戦に敗れた那須川天心。長く天心を追うカメラマンは何を感じたのか
text by

長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
会場入りする両者を撮影「対照的な表情だった」
キックボクサー時代から那須川天心を追いかけてきたカメラマンとして、試合前の心境は“天心寄り”でした。ただ、今回は井上拓真選手の完勝だったと思います。いろいろなことを考えながら撮影していたのですが、まず印象的だったのが、試合に臨む両者の精神状態の違いです。
試合当日、会場入りする両選手を撮影しました。はっきりと感じたのは、今回の天心選手は心身ともにとてもいい状態だったということ。談笑したり、こちらのカメラにピースをしたりする余裕もあって、普段とまったく変わらない“陽の天心”でした。試合に招待した児童養護施設の子どもたちとの撮影でも表情は明るかったですね。2月のジェーソン・モロニー戦はかなりナーバスになっていた印象でしたが、そのときと比べるとだいぶ自信がついているのを感じました。
一方の拓真選手は、会場入りの時点で相当な緊張感があった。一言も発さず、ややうつむき加減で、人を寄せ付けない雰囲気というか……。天心選手とは対照的でしたね。精神的には、拓真選手のほうが追い詰められていたのかもしれません。実際のところはわかりませんが、「負けたらやめる」くらいの気持ちで臨んでいたのでは。いずれにせよ、ボクシング一筋で生きてきた者として「負けられない」というプレッシャーは相当なものだっただろうと推察します。
「あんなにやりづらそうな天心は初めて見た」
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最初の2ラウンドの拓真選手の硬さもその思いの強さに起因していたのか、あるいはあえて1、2ラウンドは相手のパンチ力の確認のために使ったのか……。実際のところはわかりませんが、正直、2ラウンドまでは撮影しながら「今日は天心の日だ」と思っていました。ただ、そこから拓真選手の意地、ボクシングの奥深さを感じさせる展開になりましたね。
3ラウンド以降、拓真選手が距離を詰めたことで流れが変わったのは明らかでした。モロニー戦や前戦と比較して、天心選手は間違いなく成長していた。コンディションもよかった。しかし、拓真選手の絶妙な距離感、細かい技術によって、スピードやリーチの長さ、目の良さといった強みを消されてしまった。キック時代も含めて、あんなにやりづらそうにしている天心選手は初めて見ました。



