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敗戦も「那須川天心の“商品価値”は下がっていない」元世界王者がプロモーター目線で見た“可能性”とは?「彼の人間臭さが出るファイトを見たい」
posted2025/11/29 17:01
伊藤雅雪氏は、那須川と拓真の「性能」は互角で、むしろ那須川のボクサーとしての評価は上がったと見た
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Naoki Fukuda
11月24日、トヨタアリーナ東京で行われたWBC世界バンタム級王座決定戦は、同級2位の井上拓真(大橋)が、同級1位の那須川天心(帝拳)を3-0の判定で下し、13カ月ぶりに王座返り咲きを果たした。勝敗を分けるポイントはどこにあったのか——。現在は『TREASURE BOXING PROMOTION』の代表などを務める伊藤雅雪に、元世界スーパーフェザー級王者、プロモーターの視点で試合を振り返って、この勝敗が持つ意味までを読み解いてもらった。〈全2回の2回目/はじめから読む〉
完敗ではない。勝者の井上拓真と敗者の那須川天心の間に、埋めがたいほどのレベル差はなく、格闘技55戦目で初黒星を喫した“神童”が勝てるシナリオもあったはずだという。客観的な立場で、伊藤は残念そうに話す。
ふたりの「スペック」はさほど変わらなかったが
「戦い方が違っていれば……。今回は拓真が勝ちましたけど、1年後、再戦すれば、天心が勝つ可能性もあると思いました。持っているスペック(性能)は、さほど変わらないはずです。それをいつ、どこで、使うのか。コントロールの仕方ですよね。WBCルールのオープンスコアリングシステムがあるなかで、天心は出るところで出られなかった」
4回終了時の公開採点はジャッジ3者ともに38-38のドロー。序盤は那須川のペースだった。1回には遠い距離から長いリーチを生かした左ストレートを当て、2回には右のカウンターもヒット。
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ただ、3回から井上が戦い方を変えてくると、うまく対処できずに苦しんだ。あらゆるパターンを想定した作戦の立て方、それを遂行する力の差を感じた、と伊藤はいう。多くの引き出しを用意しておくのも準備の一環だろう。なかでも5回は勝負の分かれ目だったという。

