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井上拓真の“エグいアッパー”で那須川天心の顔面が…カメラマンがとらえた決定的瞬間「ボクシングをなめるな」“ブーイングも飛んだ”現地ウラ側
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長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2025/11/30 17:03
井上拓真とのWBA世界バンタム級王座決定戦に敗れた那須川天心。長く天心を追うカメラマンは何を感じたのか
井上陣営は徹底的に「那須川天心」を研究していたんだと思います。長い距離で好きにやらせることはせず、天心選手がやりにくい位置に身を置いて、カウンターを狙われるような打ち方もしない。天心選手はカウンター主体のファイターですからね。ペースを握られてからは、「どうしたらいいんだろう」という天心選手の迷いが深くなっていくのが見てとれました。
4ラウンドの公開採点でイーブンになって、5、6、7ラウンドと拓真選手のペースが続くなかで、局面を打開するための引き出しが天心選手にはなかった。いや、あったのかもしれませんが、拓真選手がそれを出させなかった。中盤以降はクリーンヒットがほぼないし、パンチを効かせることができていない。自分のやりたいことを途中からほとんどやらせてもらえませんでしたね。
「ボクシングをなめるな」肌で感じた会場の熱気
一方の拓真選手は予知しているかのようにダッキングでパンチをかわしたり、アッパーを連打したり、距離を詰めて打ち合ってみたりと、準備してきたことがどんどん出るようになってきた。引き出しの差、経験の差、「ボクシングの技術力」の違い。まさにこの競技の奥深さだと思います。同時に「絶対に天心に勝つ」という大橋ジム、井上家の一丸さも伝わってきました。
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会場の雰囲気も拓真選手を後押ししていましたね。試合前に兄の井上尚弥選手がファンを煽って大歓声が起きたときに、「ああ、天心にとってはアウェイだな」と。拓真選手のパンチがかするくらいでも、会場が沸いていましたから。押し合いで拓真選手がスリップしたときには天心選手へのヤジやブーイングがはっきり聞こえました。「ボクシングをなめるな」「好きなようにはさせないよ」という人たちの熱気――撮影しながら、それをひしひしと感じました。
8ラウンドの公開採点で拓真選手がリードして、終盤ははっきりと差が生まれましたね。ペース配分の問題なのか、スピードも落ちて、天心選手の良さは消えてしまった。拓真選手の強烈なアッパーが何度も顔面にヒットしていました。12ラウンドのタイトルマッチを何度も経験している拓真選手との差もあったんでしょう。スパーリングで長いラウンドを経験して、頭ではわかっていても、実際に「世界戦の戦い方」を身につけるのはやはり難しいんだな、と。
那須川天心が強くなるために必要な敗北
判定を待つまでもなく、天心選手が負けたのはわかりました。内容的にはそれくらい明らかな負け、完敗だったと思います。ただ、今までの天心選手のボクシングキャリアの中では一番いい試合だったのでは、と感じたのも確かです。



