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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「天心選手は混乱したはず…」元世界王者・飯田覚士が見た井上拓真vs那須川天心“勝負の分かれ目”「突き飛ばされても拓真選手は表情を変えなかった」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/11/29 11:03
WBC世界バンタム級王座をかけた井上拓真と那須川天心の大注目の一戦。元世界王者の飯田覚士氏はこの試合の勝負の分かれ目をどう見たのか
「もちろん拓真選手のサウスポーに対する右カウンターと左フックがキレキレで、警戒していたとは思います。不用意に入っていったら、そのパンチが飛んできますから。相手から誘われていると思うと、パンチは出しにくい。12ラウンドでも拓真選手が敢えてロープを背負うシーンがありましたからね。天心選手は多少なりとも混乱したはずです。
ただ天心選手のスタミナが削られていたとも感じました。右のジャブが減ったというのは、打ち続けるだけのスタミナを奪われたとも言えます。そして距離が詰まったところでペースを拓真選手に一気に持っていかれて、取り戻せなかったのは前の手がうまく使えていなかったこともあるでしょうね」
井上はプレッシャーを掛けつつも、ときには止め、前に行くと見せかけて行かず、打つと見せかけて打たず、つまりは那須川の思考力を疲弊させていた。相手が初めての12回戦を十分に戦える体力のスタミナをつくり上げてきたといっても、ヒリヒリした駆け引きと圧力で削っていくのもまた経験値。注意を最大限に払っていた那須川の左ストレートとともに、結果的には右をも封じていた。
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那須川も何とか打開しようと必死になっているのは伝わってくるのだが、如何せん空回りさせられてしまう。スピードに乗った攻防と駆け引きは、最後まで見どころたっぷりではあった。
井上拓真はバンタム級王座統一も可能
結局、4ポイント差2人、6ポイント差1人の3-0判定で井上に軍配が上がった。
「拓真選手の良さは、やっぱりディフェンス。パンチをもらわないで攻撃していくのが彼の本来のスタイルであり、前回の堤聖也戦はそこが雑でした。腰が浮いたり、ガードも下がったり、持ち味のはずの丁寧なボクシングがなかった。でも今回は、本来の自分のボクシングをよみがえらせたことで天心選手に隙すら与えなかった。『ベルトというより天心選手に勝つ』とコメントを聞いても、その一点に集中していたように感じます。
事前予想は天心選手の判定勝利としました。というのもあんなにスピードがあって、12センチのリーチ差があって、懐が深いとなると、拓真選手からしたらやりづらい相手なはずなんです。でもそのやりづらさをつぶして、足も使わせず、自分の土俵に引きずりこんで勝った。これができるならもう怖いものないでしょって思えるくらい、一つの大きな壁を乗り越えたんじゃないでしょうか。こんなやりづらい相手を攻略したんですから、今回と同じような強度のトレーニング、モチベーションがあれば尚弥選手と同じようにバンタム級王座を統一していくことも可能だと思います。それくらいインパクトのある勝利でした」


