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「天心選手は混乱したはず…」元世界王者・飯田覚士が見た井上拓真vs那須川天心“勝負の分かれ目”「突き飛ばされても拓真選手は表情を変えなかった」

posted2025/11/29 11:03

 
「天心選手は混乱したはず…」元世界王者・飯田覚士が見た井上拓真vs那須川天心“勝負の分かれ目”「突き飛ばされても拓真選手は表情を変えなかった」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

WBC世界バンタム級王座をかけた井上拓真と那須川天心の大注目の一戦。元世界王者の飯田覚士氏はこの試合の勝負の分かれ目をどう見たのか

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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Takuya Sugiyama

 11月24日に行なわれたWBC世界バンタム級王座決定戦。那須川天心と井上拓真による注目の一戦は、3-0の判定で井上拓真が勝利を収め、世界王座に返り咲いた。戦前の予想では那須川天心がやや有利と言われていたが、果たして勝負の分かれ目はどこにあったのかーー元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士氏が全2回にわたって徹底解説する。<全2回の後編/前編から読む> 

那須川天心にとって「もどかしい展開」

 アゲアゲになってきた井上拓真からペースを取り戻すには、那須川天心に何かしらのアクションが求められているのは明白であった。

 大注目のWBC世界バンタム級王座決定戦は中盤に入っていく。イーブンだった公開採点直後の5ラウンド、流れを変えさせないとばかりに先に出ていったのは井上であり、6ラウンド終盤には距離を詰めて右フック、右アッパーを当てて、ポイントをしっかり取りにいく。プレッシャーを掛け、パンチは出さなくてもジリジリと追い込む。手数が出ない那須川にはもどかしい展開が続いた。

 飯田覚士は中盤戦の戦いをこのように考察する。

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「天心選手はどう打開していけばいいのかと考え始めていたようにも見えましたね。1、2ラウンドのような戦い方に戻すのかどうかハッキリしない。感覚的に戦ってきたのに、考えようとする、相手のことを見ようとすると、それこそ拓真選手の思うツボ。拓真選手はジャブを打ってこないと見るやパンチを入れて、どんどんペースを上げていくわけです」

 足を止め、7ラウンドに入ると那須川は頭をつけて接近戦に応じる。だが打開策とはならず、むしろ井上のペースを加速させてしまう。もみ合いのなか両手で突き飛ばしてしまうと場内からはブーイングも飛んだ。

「突き飛ばされたほうは熱くなってもおかしくない。でも拓真選手はまったく表情を変えない。逆に、天心選手の焦りみたいなものを感じ取ったのかもしません」

 8ラウンド終了時点での公開採点は76―76、77―75、78―74と、井上が2-0とリードする。那須川に変化の兆しが見られない限りは、このままポイントが開いてしまうことも予想された。

 公開採点後の9ラウンドも、先に手を出していったのは井上のほうだった。押さえなきゃいけないところをしっかり押さえようとするあたりも、経験値と言えようか。このラウンド終盤にノーモーションの右ストレートを当てるなど、ポイントの取り方も押さえている。那須川はその後、柔らかく動く序盤の戦い方に戻してきたが、これまた流れを変えるまでには至らない。11ラウンド、逆にギアを上げてきた井上のアッパー連打を浴びてしまう。

「天心選手は多少なりとも混乱したはず」

 那須川の手数が減り、ペースが上がっていかなかったのは、駆け引きに長けた井上の「巧さ」だけが要因だったのか。

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