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敗戦も「那須川天心の“商品価値”は下がっていない」元世界王者がプロモーター目線で見た“可能性”とは?「彼の人間臭さが出るファイトを見たい」 

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph byNaoki Fukuda

posted2025/11/29 17:01

敗戦も「那須川天心の“商品価値”は下がっていない」元世界王者がプロモーター目線で見た“可能性”とは?「彼の人間臭さが出るファイトを見たい」<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

伊藤雅雪氏は、那須川と拓真の「性能」は互角で、むしろ那須川のボクサーとしての評価は上がったと見た

那須川にはパターンが一つしかなかった

「天心とすれば、アクションを起こすタイミングでしたが、思い切って起こせなかった。拓真のペースになっているのに、同じリズムのまま、後手に回ってしまったので。パターンが一つだけしかなかった。ボクシングの対応力が足りないな、と思いました。

 拓真が来たときに天心は、もっと応戦しても良かった。相手のアッパーに対してフックを合わせるなど、反応は良かったんですから。勝負どころで、もっと強引に自分から行く策を取れていれば……。細かく見ると、接近戦の技術力の差はありましたけど、それだけではないと思います」

 那須川の個性でもあるエンターテイナーの一面は、世界戦のリング上ではわずかな隙を生んだかもしれないと伊藤は見る。レベル差の大きい相手であれば、問題なかったかもしれないが……。

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「実力差があまりないなかで、どうなのかなって。勝っていれば、何も言われなかったと思いますけどね。普段、外から見ていても、真摯にボクシングに取り組み、才能があるのも分かります。ただ、あの試合をリングサイドで見ていた側からすると、拓真のほうが人間臭く戦っていたし、勝負どころで一戦に懸ける思いの違いが出たように感じました。天心があえて見せていないだけかもしれないですが、そこの差はあったのかなと」

初の世界戦で見せた成長

 ただ、初の世界戦に向けて、那須川がベストのコンディションをつくってきたのも事実。動きには切れがあり、スタミナも十分だった。前回のビクター・サンティリャン戦よりもボクシング技術を向上させ、体幹の強さも変わっていた。目を引いたのは、パンチを受け止めたときの安定感。以前に比べて、ぐらつくことがなくなったという。

「手数は少なかったですが、打たれたあとにも打ち返していましたから。立ち姿は良かったですね。僕は一番強い天心を見せた試合だったと思っています。フラットに見ても緊張感があり、面白かったです。あれだけのパフォーマンスを見せた拓真に対し、拮抗した試合ができたんですから、世界のトップクラスで戦えることの証明になりました。評価は下がらないと思います。むしろ、上がったのではないですか」

【次ページ】 那須川の価値は変わっていない

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