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「タクマに謝りたい。テンシンが勝つと思っていた」英国人記者が断言した井上拓真と那須川天心の“明確な差”「ついに“兄の影”から抜け出した」
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杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/11/27 11:02
戦前は「那須川天心が有利」と予想していたトム・グレイ記者。井上拓真のボクシングを興奮気味にレビューした
テンシンは基本的に、距離とタイミングを完璧に整えて鋭い一撃を当てたいタイプの“シャープシューター”だ。だがタクマはその機会を完全に奪った。3ラウンドから強度を一気に上げ、攻撃は多彩で、角度もバリエーション豊かだった。
誤解しないでほしいが、タクマが兄のような“最高級のエリートボクサー”だと言うつもりはない。ただしタクマは世界レベルの実力者であることは間違いないし、最高レベルの相手と何度もリングを共有してきた。今回の試合内容は本当に素晴らしかったし、傑出した戦いぶりだった。私は間違っていた。
ブランクを感じさせない鋭さ
タクマが優れたテクニシャンであることはわかっていた。基礎が完璧で、今回の試合でも終始ポジショニングが良かった。テンシンは足が速いが、それでもタクマの方が“常に正しい位置”にいた。サウスポー相手の“足の勝負”で常に上回っていた。兄のような爆発的なKOパワーはないが、“技術の精度”が突出している。
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2019年、タクマがノルディーヌ・ウバーリ(当時WBC世界バンタム級王者)と戦った試合を覚えている。あの一戦には敗れたが、その頃から“非常に巧い選手”だという認識はあった。だから技術面のレベルの高さには驚きはないが、テンシンとの戦いでサプライズがあったとすれば、“どれだけフレッシュだったか”という部分だ。本当に1年以上のブランクがあった選手には見えなかった。まるで3カ月前に試合したかのような鋭さだった。適応と修正のタイミングも完璧だった。
今戦がおそらくタクマのベストファイトだが、とにかく“勝ちたい”という気持ちが強烈だったのだろう。彼はすでに世界王者になった経験があるし、正直、私はもっと気持ちが落ちているのだと思っていた。引退について語る選手というのは、すでに片足が外に向いているものだから。しかし、実際にはタクマの心構えはまったく違い、その戦いぶり、表情からはhunger(飢え)が見えた。


