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「ああ、なくしてしまった」“両親の30年分”がこもった金の結婚指輪が…世界陸上“あの金メダリスト”が感謝「日本人ならではのやさしさだ」 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byHiroaki Sawada

posted2025/12/03 11:01

「ああ、なくしてしまった」“両親の30年分”がこもった金の結婚指輪が…世界陸上“あの金メダリスト”が感謝「日本人ならではのやさしさだ」<Number Web> photograph by Hiroaki Sawada

世界陸上男子競歩で“結婚指輪をなくして”話題となったカイオ・ボンフィムと妻のジュリアーナさんら家族に現地ブラジルで取材した

「前に一度、練習中に指輪が落ちたことがあって、少し細くしていた。それでも落ちてしまった……35kmのレースで消耗して、指が細くなっていたのかもしれない」(※カイオは1週間前の35kmにも出場し、銀メダルを獲得した)

――それで、どうしたのですか?

「立ち止まって指輪を拾い上げるわけにはいかないから、『次にここを通ったら、係員に指輪が落ちたことを知らせ、保管しておいてもらおう』と考えた。そして、次にその地点を通ったら、僕の指輪が地面に落ちているのを発見。係員に指輪を指差し、『保管しておいて』と英語で頼んだ。でも、僕が言ったことを理解してもらえたかどうかはわからなかった。

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 再びこの地点に戻ってきたら、もう指輪はなかった。係員が保管してくれたかどうか、自信がなかった。〈ああ、これは無くしてしまったな〉と覚悟した。実は、あの指輪は特別なものなんだ」

39年の歴史が詰まった指輪だったんだ

――と言いますと?

「僕の両親は、結婚して10年経つ度に、金の指輪を作っていた。そして、僕とジュリアーナが結婚したとき、それまでの30年間に作った合計6本の指輪で、僕らの指輪を作ってくれた。僕の指輪の内側にはジュリアーナの名前、彼女の指輪には僕の名前を彫った。それから9年。つまり、指輪には僕たち家族の39年の歴史が詰まっていたんだ」

――金銭的な価値だけでなく、家族にとって非常に大きな意味を持つ指輪だったのですね。

「それほど大切な指輪を、よりによって世界陸上のレース中になくしてしまった。歩きながら考えたんだけど、指輪をなくしたことをジュリアーナに許してもらうには、優勝するしかない。『金の指輪はなくしてしまったけれど、代わりに金メダルを取ったから許してくれ』と申し開きしよう、と考えた。それで迷いが消え、また競技に集中できた」

妻から「二度となくさないでね」と

――レース直後、優勝の報告と共に、指輪をなくしたことを泣きながらジュリアーナさんにも伝えたそうですね。

【次ページ】 妻「そんなことがあるの?」

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#カイオ・ボンフィン

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