熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER

「ああ、なくしてしまった」“両親の30年分”がこもった金の結婚指輪が…世界陸上“あの金メダリスト”が感謝「日本人ならではのやさしさだ」

posted2025/12/03 11:01

 
「ああ、なくしてしまった」“両親の30年分”がこもった金の結婚指輪が…世界陸上“あの金メダリスト”が感謝「日本人ならではのやさしさだ」<Number Web> photograph by Hiroaki Sawada

世界陸上男子競歩で“結婚指輪をなくして”話題となったカイオ・ボンフィムと妻のジュリアーナさんら家族に現地ブラジルで取材した

text by

沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

PROFILE

photograph by

Hiroaki Sawada

 アスリートを取り巻く「いい夫婦」は海外にもいる。2025年、東京で開催された世界陸上で話題になったのは「結婚指輪をなくしたブラジル人金メダリスト」だ。ブラジル在住の日本人ライターが練習先を訪れ、選手夫婦と両親に秘話を聞いた。〈NumberWebインタビュー/全4回〉

公道で練習していると罵倒されたことも

 今年9月に開催された世界陸上東京2025で、ブラジル人のカイオ・ボンフィムは男子競歩35kmで銀メダル、20kmで金メダルを獲得した。16歳から競歩に転向し、女子競歩の元国内王者である母ジャネッチさんの指導を受けて、実力を磨いた。幼少時、彼は両足が曲がって極端なO脚になるブラント症候群という難病に苦しみ、手術と長期間のリハビリを強いられた。

 さらに、競歩を始めると、練習以上に苦しいことがあったと言う。

「公道で練習していると、腰を左右に振る競歩特有の歩き方を行き交う人たちから散々に嘲笑され、時には罵倒までされた。ブラジル人は、時として冗談が過ぎるからね(苦笑)。とても悔しかったし、悲しかったけれど、これはブラジルで競歩に対する理解と認識が低いからだ、と思った。自分が良い選手になって国際大会で立派な成績を残し、競歩を理解してもらおう、認知してもらおう、と考えて、さらに練習に励んだ」

ADVERTISEMENT

 強い気持ちで練習に取り組み、レースに臨んだことは、やがて結果となって表われる。2012年ロンドン五輪で21歳にしてブラジル代表となると、4年後の地元リオ五輪では20kmで3位とわずか5秒差の4位に入賞した。その後も17年の世界陸上で銅メダル、2024年のパリ五輪では「大会までに立てた練習計画は、ほぼ完璧に消化できた。コンディション調整も、うまくいった」と振り返る通り、銀メダルを獲得。世界トップクラスの選手となった。

 そんなカイオが日本で話題となったのは、金メダルを獲得した20kmのレースで、自身の左手に着けていた結婚指輪を紛失してしまったこと。結果的には発見されたが、夫婦と家族の愛情をつなぐ大切な証だった。

「あの指輪は、妻への愛情の証であると同時に、僕のお守りでもあった。いつも勝負所でキスをして、気持ちを奮い立たせていた。色々な意味で大切な物をなくしてしまった」

ああ、これはなくしてしまったな

――20kmのレース中に結婚指輪をなくした状況を、詳しく教えてもらえますか。

「3km地点で落としてしまったんだ。右手を伸ばしてスポンジを取り、頭や体を冷やした後、左手でスポンジを捨てようとした。その際、薬指にはめていた指輪がスポンジに引っ掛かり、一緒に飛び出てしまった」

――どうしてそんなことが……指輪が緩かったのですか?

【次ページ】 39年の歴史が詰まった指輪だったんだ

1 2 3 NEXT
#カイオ・ボンフィン

陸上の前後の記事

ページトップ