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「夫が泣きながら電話してきたの」世界陸上で落とした結婚指輪…“競歩金メダル”カイオと妻がブラジルで語る夫婦愛「心に大きな穴が開いたよ」

posted2025/12/03 11:00

 
「夫が泣きながら電話してきたの」世界陸上で落とした結婚指輪…“競歩金メダル”カイオと妻がブラジルで語る夫婦愛「心に大きな穴が開いたよ」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

世界陸上男子20km競歩で金メダルに輝いたカイオ・ボンフィム。しかし本来はあるはずの左手薬指には結婚指輪がなかった

text by

沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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Kiichi Matsumoto

 アスリートを取り巻く「いい夫婦」は海外にもいる。2025年、東京で開催された世界陸上で話題になったのは競技中に「結婚指輪を落としたブラジル人金メダリスト」だ。ブラジル在住の日本人ライターが練習先を訪れ、選手夫婦と両親に秘話を聞いた。〈NumberWebインタビュー/全4回〉

泣きながら電話してきたの、申し訳ないって

 今年9月、国立競技場を舞台に盛況だった東京2025世界陸上。日本勢だけでなく海外各国のアスリートの超人的能力、さらには人間ドラマにも注目が集まったが――その1人にブラジル人金メダリストがいる。

「ゴールインしてから間もなく、彼が泣きながら電話してきたの。大きな国際大会で初めて優勝して、気持ちの高ぶりもあったのでしょうね。『とうとう勝ったよ。でも、君の名前が刻まれた、家族にとってとても大事な指輪をなくしてしまった。申し訳ない』って……」

 こう語るのは、男子競歩20kmで金メダル、35kmで銀メダルを獲得したカイオ・ボンフィム(以下、カイオ)の妻ジュリアーナさんだ。20km競歩の競技中になくした結婚指輪が見つかり、帰国直前に手元へ戻る、という奇跡のような出来事は日本国内でも大きく取り上げられた。

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 そのカイオと彼の家族に、詳しく話を聞きたいと考え、10月に彼の練習拠点を訪れた。

世界陸上、メダルのチャンスはあると

――まず、9月13日に行なわれた35kmのレースを振り返ってください。朝7時半のスタートでしたが、最初から蒸し暑く(気温26度、湿度77%)、なおかつレース中に温度と湿度がどんどん上がる過酷なレースとなりました。

「コーチである母ジャネッチと相談し、前半は抑えて後半一気に追い上げる作戦を立てた。一時は先頭集団から少し離されていたけれど、リズム良く歩けていたから、メダル獲得のチャンスはあると思っていた。先頭の選手たちにアクシデントがあり、彼らには申し訳ないけど、僕にとっては幸運。これは行けるぞ、と思って死に物狂いで歩いた。疲労困憊していたけれど、妻と子供たち、そして両親の励ましを思い出して懸命に歩いた。(優勝したカナダの)ダンフィーには追いつけなかったが、2位に入れたことには満足している」

【次ページ】 自分は2位だと思い込んでいた

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