濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「次戦で引退」武尊34歳がついに宣言…広がっていた“限界説”は妥当だったのか? 現地で見た獰猛なKO、明かした本音「身体が壊れてもいい」
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byONE Championship
posted2025/11/23 17:00
ピューリックに勝利し、「次戦で引退」を表明した武尊
武尊の“限界説”は妥当だったのか?
ただ今回の試合を見ていて、衰えとまで言えるようなものは感じなかった。むしろ感じたのは獰猛さ。1ラウンドからパンチで2度のダウンを奪い、2ラウンドはカーフキックで倒すとトドメの右。ピューリックを文字通り吹っ飛ばした。
右クロスの連打に加えて印象的だったのはカーフキックと三日月蹴り。膝下とボディをえぐるような攻撃は、武尊曰く「相手を破壊するスタイル」だ。今大会はリングより広いケージで行われたため、相手に圧力をかけ、攻撃をたたみかける追い足の鋭さも目立った。
武尊はもう限界なのかといえば、決してそうではない。那須川戦からピューリック戦までの戦績は3勝3敗。端的に言えば“勝ったり負けたり”で、負けが目立つようにはなった。なにしろK-1では35連勝している。
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といって那須川、スーパーレック、ロッタンという世界トップ中のトップに負けたことをもって“限界”とするのは、いささか短絡的だろう。それこそ勝ったり負けたりしながら競い合うのがトップの世界だ。
一方で、武尊の“残り時間”が少ないであろうことも以前から想像できた。「そろそろ」と考えるだけの理由もあるのだ。ピューリック戦でもパンチをもらってグラつく場面があったように、武尊の好戦的なファイトスタイルは隙が生まれやすい。殴り殴られ、あるいは倒し倒され。そういう試合をするから武尊はファンを熱狂させたし、その分だけダメージもたまる。
試合前には、アメリカ合宿も含め数カ月に渡る“追い込み”練習を敢行する。スーパーレックに敗れた時、武尊はこう言って泣いた。
「僕ができるのはここまでです……。これ以上の体を、僕は作れません」
武尊がこれまで“結婚しなかった”理由
ピューリック戦の2日後、大会で勝利した日本人立ち技選手の勝利報告会見が行われた。「生き残った」安堵もあり、リラックスした笑顔を見せていた武尊。コメント後の撮影では、取材陣のリクエストに応え、会場にいた妻でタレントの川口葵とのツーショットも。
現役中は結婚はしないと、以前の武尊は考えていたそうだ。
「結婚して安心できる場所ができてしまうと(格闘技に)命をかけられなくなる」
そういう考え方のもと、格闘技人生を過ごしてきた。「試合よりも練習での消耗が激しくて」と言っていたこともある。長く続けられるものではないし、長く続けることを目的にもしていなかった。34歳、50戦近くまで続いたことが奇跡的だったのかもしれない。




