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「スケート人生に悔いはないという気持ちで」引退表明の坂本花織(25歳)3度目の五輪に向け世界最高得点を出せたワケ「次世代に譲るのはあと数カ月待って」
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野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2025/11/16 11:03
NHK杯で今季世界最高となる227.18点をマークして優勝した坂本花織(25歳)
「今までより練習できる環境になりました。以前は1日1時間しか貸し切りが取れなかったものが、朝に2時間、夜に2時間という日もあります。オリンピックに向けて準備は整いました。あとは自分がやるだけだと思います」
例年であれば夏場に地方大会で初戦を迎え、国際大会に準備していく。しかし今年は、9月のCS木下グループ杯を初戦にし、GP大会を迎える計画に。新しいリンクでの練習に集中する作戦をとった。
しかし木下杯では、ショート、フリーともに1つずつミスがあり、総合2位。203.64点で20歳の千葉百音に優勝を譲った。
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「この夏マイペースに練習しすぎたのを感じました。1回1回の練習に『これでOK』みたいな感じで、緊張感の中での練習ができていませんでした。これをきっかけに、自分にカツを入れて、中野先生にもカツを入れてもらいながら練習します」
「これが若手に負けるってやつか…」
すると「木下杯の翌日の練習から、ショートがノーミスできるようになった」という坂本。10月のGP初戦フランス杯は、ショート、フリーともにすべて加点がつく完璧な演技で、224.23点をマークした。他のGP大会であれば十分に優勝できる得点。しかしトリプルアクセルを武器に急成長を見せた中井亜美(17)が、その時点での今季最高となる227.08点をマークし、坂本は2位となった。
「これが若手に負けるってやつか……」
そうこぼしながらも、落ち込むことはなかった。
「『ハイレベルすぎや!』と思いました。シーズン序盤に220点でも勝てないという経験ができたのは、大事なことです。自分が2位になるときは、意味のある2位のことが多い。『気抜いてる場合ちゃうぞ!』というのを、点数と順位で示された感じがしました」
フランス杯から帰国後は、練習の配分を変えた。朝晩の貸切りでは、中野コーチがリンクサイドに立ち、ジャンプや曲かけをしてブラッシュアップしていく練習になる。基礎の部分は、昼間の一般滑走で自主練習するしかない。
「一般滑走でスケーティングやスピンなど基礎の部分をコツコツやることが大事なんだなというのを思い知ったので、一般滑走にも行くようになりました。フランス杯で(レベルの)とりこぼしもあったのでスピンの練習もしないと、と思いました」
ジャンプ構成を変えて「それがハマってきた」
迎えた11月7日のNHK杯ショート。すべてのジャンプをクリーンに降りると、こぶしを振りおろした。77.05点の高得点に、納得したようにうなずく。
「今季からジャンプ構成を変えてみて、それがハマってきたという実感が湧いてきました」
記者のインタビューに嬉しそうに受け答えしていた坂本だが、終わった瞬間、飛びつくようにその場にあったスコアシートを見始めた。その目が何よりも先に見つめたのは、演技構成点(PCS)の項目。「コンポジション(構成)9.00、プレゼンテーション9.14、スケート技術9.25」の評価を確認すると、つぶやく。



