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「スケート人生に悔いはないという気持ちで」引退表明の坂本花織(25歳)3度目の五輪に向け世界最高得点を出せたワケ「次世代に譲るのはあと数カ月待って」
posted2025/11/16 11:03
NHK杯で今季世界最高となる227.18点をマークして優勝した坂本花織(25歳)
text by

野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
フィギュアスケートNHK杯女子の表彰式、スケート界のレジェンド伊藤みどりがプレゼンターとして登場すると、1位の表彰台にいた坂本花織は思わず頬を緩ませ、両手を握りしめた。メダルを首からかけてもらうと同時に、お互いにしっかりとハグ。会場は、祝福の拍手に満たされた。
今季は、木下グループ杯2位、フランス杯2位と後輩の成長を痛感しながらも、NHK杯では今季の女子世界最高点を227.18で塗り替えての優勝。現役最後のシーズン、坂本が歩んでいく道のりを追った。
伊藤みどりが語る坂本花織の評価
女子の表彰式を終えた伊藤みどりは、開口一番、こう感嘆を漏らした。
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「ショートはスタンド席から観戦したのですが、その時も『さすがだな』と思いました。でもフリーはVIP席で、ジャッジのすぐ後ろの席。氷に近い目線の高さから観ると、スピード感が全然違いました。坂本さんのスケーティングスキルが世界で1番だと評価されている理由を感じました」
ジャッジの目線に近い招待席での観戦は、これまでテレビやスタンド席から見てきた伊藤にとって、坂本への評価を大きく伸ばすものだった。
「スケートの滑りの練習をしっかりこなしている、ということが見て取れました。ただジャンプをやってるだけじゃない。プログラムの中でのスケーティングスキルを重要視して、つなぎを大切に練習してきているのが見受けられます。あのスピードの中で、技が入り、ディープエッジを見せて滑ることができる。やはりスケートは滑らないと得点がでません。坂本さんなら、彼女が持っているものを出せれば、得点が上がり優勝するということがわかりました」
トリプルアクセルを武器に戦った伊藤だが、大技の必要性には言及せず、「彼女が持っているものを出せれば得点が出る」と評価した。
ただ、坂本とて何の迷いもなく今の戦い方に辿り着いたわけではない。振り返れば、4回転に挑戦してかえって順位を落とした時期もあった。そこから「自分の強みはスケーティングと、ジャンプの加点」と再確認し、2022年からは世界選手権を3連覇。一方、昨季は「挑戦のシーズン」と位置づけ、あえて得意ではないジャンプを入れたり、スケーティングの伸びやかさを生かしにくいアップテンポな曲を選んだ。世界選手権は2位となったが、幅広い対応力を手に入れたシーズンだった。
オリンピックに向けて準備は整ったが…
そして迎えた6月、地元神戸に完成した通年型リンク「シスメックス神戸アイスキャンパス」のオープニングイベントで今季での引退を宣言した。それは気持ちを引き締めようと、自分に言い聞かせているようでもあった。



