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「撃ってくれ!」「弾ないんだわ!」ヒグマに襲われた69歳ベテラン猟師の“誤算”「入れ歯は割れて、口は裂けた」「眼球をえぐられなくて良かった」
text by

風来堂Furaido
photograph byJIJI PRESS
posted2025/11/14 11:01
二頭のヒグマを駆除するために出動した猟師の山田文夫さんとSさん。二人の“誤算”とは何だったのか(写真はイメージ)
「逃げたクマよりは、目の前のほうをやっつけるのが先。その座り込んでいるほうを二人で同時に撃ったら、その反動で崖の下に転がって落ちたんだわ。これがまず、一つ目の誤算さ」
崖の高さは6~7mほど。二人はお互い二発ずつ撃ったあと、急いでクマが落ちた地点へと走り、上から下を覗いた。
山田さんは地面についた血のり、転がっていった跡のササに血がついていたことから「クマは死んでから転がっていった」と思った。しかし一部分のササ藪がガサガサと動く。「なんだよオイ。動いてるわ!」と、山田さんは動くササ藪から目を離さないようにしながらSさんを崖の上にとどまらせ、崖の中腹まで下りて足場を固めた。
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「姿が見えたら撃ってやろうと思ってさ。そうしたら、動いていたササが動かなくなってね。あれ? と思ったら、先に逃げていた一頭がどこからか走ってきて、木につつつーって登ったのよ。上にいるSくんが撃ったら、今度はそのクマは滑るようにして木から落ちてきたから、弾当たったかな? と思っているうちに、さっきまでピンポイントで凝視していたクマの居場所を見失っちゃって。これが二つ目の誤算」
顎に食いつかれ「入れ歯は割れて、口は裂けた」
しばらく見当をつけてササ藪を見つめるものの、動きはない。「少なくても二発は当たっているし、今度こそ死んでいるな」と思った山田さんは、クマの死骸を確認するため、さらに崖を下りていった。
「確かこのへんだったよなぁ」とササ藪を進む。上にいるSさんの「山田さん! 動いているわ!」という叫び声が聞こえたか聞こえないうちに、突然、ササ藪の中から半矢(手負い)のクマが正面から襲いかかってきた。
その瞬間、山田さんは仰向けに倒され、持っていた銃はどこかに飛ばされてしまった。クマと目は合っていない。気づいたら鼻先が顔の目の前にあり、クマの開いた口や牙が見えたかと思うと、顎に食いつかれた。実際にはその前に頭を爪で引っかかれ、その傷はかなりの深さだった。

