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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
伊藤大海の沢村賞選出は“2年連続該当なし”を回避か「200→180回、10→8完投」基準をさらに見直して、先発完投型にこだわらなくても
text by

広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/11/12 11:00
日本ハムの伊藤大海が2025年の沢村賞に輝いた
PRは規定投球回数に関係なくランキングができる。1位は、ポストシーズンでも圧倒的なパフォーマンスを見せているソフトバンクのモイネロ、続いて阪神のエース才木、さらに日本ハムの北山。上位には当然ながら防御率1点台の投手が並んでいる。
今季空前の防御率0.17を記録した阪神の石井大智は、わずか53イニングだが8位につけている。及川も11位にいるが、伊藤大海は18位だ。
10年前のイニング、総投球数を比較すると
防御率は打率とともに「野球記録の父」ヘンリー・チャドウィックが考案したクラシカルなスタッツではあるが、いまだに投手評価の最重要の指標の一つだ。
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伊藤は防御率とそれに基づくPRの順位がトップクラスではない。完投数こそ6で1位だったが、完封は1試合だけ。自責点4の完投負けも含まれている。完封数は西武の今井達也、日本ハムの金村尚真、阪神の村上頌樹、広島の床田寛樹が3を記録している。
伊藤は完投数が評価されたのだろうが、今のプロ野球では、それが先発投手の一番重要な目標ではない。先発は託された6~7イニングを失点少なく抑えることが求められ、あとはセットアッパー、クローザーに託す。もちろん伊藤のように完投してくれれば、救援投手を使わなくて済むからチームは助かるが、投球過多で故障しては、元も子もない。
「昔のトップクラスの先発は200回投げて、完投数も多かったじゃないか。今の投手はひ弱になったんじゃないか?」
との声もあるだろうが、そうとは言い切れない。
10年前、2015年のNPBでは、200イニング以上投げた投手は中日・大野雄大(207.1回)、広島・前田健太(206.1回/沢村賞受賞)と2人いた。シーズン投球数が3000球以上の投手は阪神・藤浪晋太郎の3374球を筆頭に、両リーグで7人いた。
しかし2025年は、投球回数196.2回、投球数2986球で伊藤がトップ。これに続くのは、投球回数は阪神・村上の175.1回、投球数は中日・髙橋宏斗の2756球だ。
総合的な指標で優秀だったのはモイネロでは
この10年で、規定投球回数以上の投手の最高球速の平均値は、セが150.6km/hから152.8km/hに、パは151.9km/hから153.2km/hに上昇している。先発投手の「投球強度」が上がり、故障のリスクが高まっているために、各球団は先発投手の投球回数、球数を抑えるようになったと考えられる。

