「AIで効率よく答えを出したいわけでは」努力の天才棋士・永瀬拓矢…「鬼の形相でタブレットを」旧知の記者が羽田空港で見た衝撃の光景

私と藤井さんが読んでいないので、違う世界の話なのかな

　王位戦第6局の終盤、永瀬が5九に飛車を成ったことにより、藤井の期待勝率は爆上がりした。そして形勢の針は二度と永瀬側に戻ることはなかった。そこから判断すると、飛車成りによる王手は敗着という言い方もできる。

　ところが永瀬はこの手に「興味がない」と語ったのだ。ここは素通りするわけにはいかないので、もう少し突っ込んで尋ねてみた。

「私と藤井さんの2人が読んでいないので、違う世界の話なのかな、と。それならまだ飛車を7九に打つ手に代えて△6九角を拾うことの方が大事だったような気がします」

©Shintaro Okawa

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　いくらAIが正着と示していても、対局者の2人が読んでいなければ意味がないということか。

「現実的かどうかなんです。なぜその代案を考えていないかというと、その前に2人が重視しているメインの変化があるからです。それをAとして、Aが解決してないのにB（AIが示す代案）を提示されている感じなんですよね。Bからは考え始めないというのが2人の前提です。AがダメでBを考えるというように順を追うならわかるんですけど、最初からBを求められるのは酷だと思います」

　答え合わせのように将棋を見る。AI全盛の現代では、確立された楽しみ方の一つだ。ただ対局者からはそれについての疑念をしばしば聞かされる。この観る側と指す側との微妙なすれ違いは10年も続いているが、いつになればすり合わせができるのだろう。将棋を覚えた頃からAIが存在する世代が棋士になり始めているが、彼らの存在が母数として大きくなればまた違ってくるのだろうか。

藤井さんとの番勝負に勝つには…

　ちょうどこの辺りで、「あ、ここでお願いします」という永瀬の声が聞こえた。タクシーを降りるようだ。取材を終えるべきか尋ねると、「部屋に入って話せる状態になったらメールしますね」と優しく言ってくれた。感謝して電話を切る。第6局の将棋の内容についてはおおよそ聞けたが、他にも尋ねたいことがある。

　10分ほどすると、永瀬からメールが来た。あらためて電話をかけて質問を続けた。

　本局全体をどう総括するのか。

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