将棋PRESSBACK NUMBER
「AIで効率よく答えを出したいわけでは」努力の天才棋士・永瀬拓矢…「鬼の形相でタブレットを」旧知の記者が羽田空港で見た衝撃の光景
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by日本将棋連盟
posted2025/09/27 11:04
北海道で行われた王位戦第3局、記者が新千歳空港で見た、永瀬拓矢の驚きの光景とは
「AIになりますね。ただ私は効率よく答えを出したいわけじゃないんです。自分でしっかり考えた上で答えを導き出したい。自分の頭で考えることってすごく大事なんです。例えばAからCの自分なりの答えを持った上でAIを使用して、それらのプロセスがどう正しくて、どう間違っているのかを検証しなくてはいけません。自分なりの見解がなくて答えを見るのでは、全く意味がないんです。もちろん棋力によっては答えを見るだけしかできない場合もあると思いますけどね。あ、これはもちろん棋士の話ですから」
AIについて思い出したことがあった。
NumberWebでは今年6月に、前期の名人戦について全4回の記事を掲載した。その中で、「藤井さんが自分の定跡の薄いところを突いてきているのは明らかなので、王位戦開幕までには今までよりもAIと向き合う時間を増やして定跡を入れようと思っている」という趣旨の永瀬の発言を紹介した。
ADVERTISEMENT
これは序盤の知識的なことに関する話なので、先ほど永瀬が述べた、自分なりの答えを持った上でプロセスを検証することとは異なる。ただAIを使うことは間違いない。
第3局前、羽田空港で見た“鬼の形相”
その後、王位戦の開幕戦を専門誌の『将棋世界』で取材した際に、実際にAIに向き合う量を増やしたのか永瀬に尋ねた。その時は「ノーコメントです」と笑顔でかわされてしまったが、新聞観戦記を務めた王位戦第3局で忘れられない光景を見た。
第3局は新千歳空港で行われたので、対局前日に羽田空港から移動する。朝、搭乗ゲートに着くと永瀬が椅子に座っているのが見えた。挨拶をしようと近づくと、永瀬がタブレットを熱心に触っている。さらに接近すると将棋AIを起動しているのが見えた。あまりに厳しい形相で操作にふけっているので、一瞬、挨拶するのを躊躇したほどだ。タイトル戦前日のホテルで研究するのは他の棋士もしていることだが、移動中になりふり構わずに没頭しているのは珍しい。
ふと時計を確認すると、深夜1時をとうに過ぎている。そろそろ収束に向かわなくてはいけない。
私は恒例の質問を永瀬にぶつけた。
「明日も研究会ですか?」〈つづく〉


