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「AI評価値が30%→45%→73%→95%」藤井聡太23歳の逆転劇…“天才に再び敗れた天才”永瀬拓矢32歳との感想戦は「AI候補手に関心がなく」 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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posted2025/09/27 11:02

「AI評価値が30%→45%→73%→95%」藤井聡太23歳の逆転劇…“天才に再び敗れた天才”永瀬拓矢32歳との感想戦は「AI候補手に関心がなく」<Number Web> photograph by Shintaro Okawa

王位戦第6局の感想戦。永瀬拓矢と藤井聡太が突き詰めたのは終盤のAI候補手よりも……。

 永瀬が角で王手をし、藤井が玉を寄った。残り時間は藤井が15分、永瀬が21分。6分考えた永瀬が7九の飛車を5九に成って王手をすると、藤井の期待勝率が81%に上昇した。先手玉に迫っただけなのに何が起こっているのだろう。AIは飛車で1九の香を取る手を有力だと示している。手駒を増やせということか。

 藤井が竜と玉の間に桂を打って受けた。他の駒で受けると詰んでしまうという。永瀬が角で8七の金を取る。すると少ししてモバイル中継に「もう形勢がひっくり返ることはないと思います」という立会人の青野照市九段のコメントが掲載された。確かに期待勝率は藤井95%とさらに開いたが、先手玉のそばには敵の竜がいるのでヘタに駒を渡すことができない。そんなに簡単な局面なのかと思っていると、藤井が角で王手をして後手玉を追い詰めていく。正着が続いているようだ。容易くはないだろうに。

どこが悪かったんだ、と永瀬は自問するかのように

 日本将棋連盟の職員がアナウンスをし、記者たちが記者室前の廊下に集合した。記者室のドアを開け放し、ABEMAの生放送が映る大型モニターを外からも眺められるようにしてくれた。永瀬の苦しそうな表情が映る。モニター越しにも、藤井から勝負の気配が消えたことがわかった。勝利を確信したのだ。

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 午後7時34分、永瀬が投了を告げた。藤井がシリーズ4勝2敗で防衛に成功し、王位6連覇を達成した。

 少ししてから特別対局室に入る。主催社のフラッシュインタビューが始まり、まずは藤井が質問を受けた。右手を口に当てた永瀬は盤を凝視して動かない。どこが悪かったんだ、と自分に問いかけているようにも見えた。脇息の上にはファンから贈られたカメのイラストが入ったハンカチが置かれている。永瀬のそばにクーラーボックスがあったのはゼリー飲料を所望したからで、第6局主催の東京新聞が用意したのだという。

 永瀬はじっと目を閉じた。眼前で一局について振り返っている王位の声は耳に入っているのか。

AIが示す候補手にはあまり興味がないようだった

 するとこの日、A級順位戦を戦っていた佐々木勇気八段が現れた。だが対局室には入らず、廊下から対局者に鋭い視線を飛ばしている。佐々木は10月から竜王戦七番勝負で藤井と対戦することが決まっている。藤井のデビュー以来の連勝を29で止めた時から、敵情視察を大切にしている。

 インタビューの番が永瀬に移った。

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