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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「アフマダリエフの表情が変わった」じつは“試合開始20秒”に勝負の分け目…井上尚弥はいかに敗者の心をへし折ったか? 怪物と最も拳を交えた男の証言
text by

森合正範Masanori Moriai
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/09/19 11:04
黒田雅之氏は、試合開始20秒で“勝負のターニングポイント”があったと語る
「はい。それと4ラウンドのアフマダリエフが入っていこうとしたところにカウンターで打った右のパンチです。あれでアフマダリエフは入れなくなった。ダメージもあっただろうし、いったらやられるな、と。アフマダリエフはキャリアがあるし、クレバー。だからこそ、もういけなくなってしまった」
第4ラウンド、2分20秒過ぎ。アフマダリエフは細かい右ジャブを3発突き、前へ出た。左フックを打とうとした瞬間、井上が下がりながら小さな右フックを放つ。顔面に食らったアフマダリエフは一瞬、体勢を崩した。
――コンパクトでとても綺麗な右でした。
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「サウスポーの前足の外側に立つ。井上選手は、誰もが言われる基本の闘い方を徹底していましたね。そうすると、相手の左手が遠くなるから、打ってくるときによく見える。特にあの場面は、アフマダリエフは外側から大きく振る左フックでした。井上選手は下がりながら、軌道が見えたのではないでしょうか。それに対して、ちょこんと当てるカウンターの右。毎試合そうですが、特別なことをやっているのではなく、本当に基本の積み重ねなんです」
なぜアフマダリエフは“手詰まり”になったか?
――そこからの展開は?
「アフマダリエフと一緒にするな、と言われるかもしれないですけど、井上選手とスパーリングをした経験でいうと、ラウンドが進むごとにやれることがなくなっていくんです。スパーでこうしよう、ああしようと準備してきたものが完璧に返される。どんどん潰されていき、用意してきた手札が全部なくなるんです」
――アフマダリエフはどうしたかったのでしょうか?
「もっと前に出て、プレッシャーをかけたかったと思うんですよ。多少、前へ出るんですが、ジャブやカウンターを食らってしまう。そうなると、だんだんやることがなくなってきて、どうしていいかわからなくなる。とりあえず、ジャブを突いて前に出て、井上選手が止まった時に連打を打って……。ですが、それもやっぱりかわされて、挙げ句、外からも内側からもジャブを打たれますし」
――手詰まりになるアフマダリエフの気持ちがわかる、と。
「よくわかりますね(笑)。いろんなものを用意してきたはずなのに、手持ちがなくなっている。途中で心が折れるような感覚になりますね」


