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「これからはお前がやるんだぞ」“セッター”が背負う特別な重圧…男子バレー低迷期を知る、深津英臣が“35歳”になった今も日本代表を目指す理由
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田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuko Tanaka
posted2025/09/22 11:04
4年ぶりに日本代表に復帰し、今季は若手に混ざってBチームでプレーした深津英臣(35歳)。コーチには長く一緒に戦った清水邦広、永野健が務めた
2017年、中垣内祐一監督とフィリップ・ブランコーチ体制の日本代表で深津は主将に任命される。
だが、ここでも深津は鼻をへし折られる出来事があった。
新体制初の公式戦となったワールドリーグのスロバキア戦。深津はスタメン出場を果たしたが、ストレート負け。翌日のポルトガル戦で起用されたのは藤井直伸だった。敗れはしたもののフルセットで勝ち点獲得に貢献したことで、藤井が正セッターとして出場機会を増やしていく。深津はリザーブとしてベンチから試合を見守る時間が増えた。続くアジア選手権、ワールドグランドチャンピオンズカップでも序列に変化はなかった。
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Vリーグでは4季ぶりにパンサーズ優勝に貢献。ベスト6にも選出された。しかし、再び日本代表の始動を控えた2018年の春、深津は中垣内に呼ばれた。
「今シーズンは、キャプテンを柳田にしようと思う」
奪われたポジション…ついに代表落選
主将の任を降りるだけで、日本代表から外れるわけではない。しかし、自らの立たされた状況が厳しいものであることは理解できた。ライバルの成長も手に取るように感じていた。離れた状況から自在にミドルの攻撃を使い、さらにバックアタックやファーサイドからのトスも臆せず上げる藤井や関田誠大の凄さばかりに目がいく。躍起になればなるほど空回りした。
そして、同年5月に開幕したネーションズリーグの最中、その後に控えていた世界選手権出場メンバーで構成されるA代表からの落選を告げられた。
「ちゃんと落とされました。『サイドアウトの1本目に上げるトスはきれいだけど、ラリーがつながるとどんどん質が落ちるから』と理由も明確だった。キャプテンが1年で変わって、メンバーからも落とされたから、周りからは『監督やコーチと合わないんじゃないか?』と言われたこともありましたけど、そうじゃない。そんなに簡単な世界で戦っているわけではないですから」
今でこそ、冷静に振り返ることができるが当時の心情は複雑だった。自分を追い込むことに必死すぎて「愛している」と公言するバレーボールを楽しむ余裕もなくなった。
「正直に言えば、日本代表の試合を見るのも苦しかった。『関田すげーな、藤井すげーな』って誰より思うんですけど、そう思うからこそ悔しくて。試合を見ること自体が嫌な時期もありました」
主将としてスタートを切った“東京五輪”は、気がついたら遥か遠い存在になっていた。

