ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
「来い、来い」アフマダリエフの挑発後にあった井上尚弥の“異変”「試合を象徴するシーン」最強挑戦者を圧倒…なぜ“判定狙い”でも魅力的だったのか?
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/09/15 12:22
井上尚弥はスマートなアウトボクシングを貫き、ムロジョン・アフマダリエフを圧倒。KOだけではないボクシングの醍醐味を見せつけた
井上のボクシングはなぜ“判定でも魅力的”なのか
井上はKOを狙わなかった。それでも試合は非常に見ごたえがあった。ボクシングの魅力は激しい打ち合いばかりにあるのではない。スマートなアウトボクシングにうならされたこの日、ボクシングの新たな一面を知ったファンも多かったのではないだろうか。
もっとも並のボクサーがチャンスに勝負をかけなかったら「何をやっているんだ」と思われてしまうことだろう。ところが私たちは井上が難しい局面で何度もKOを演出してきたことを知っている。だからこそ、いつもとは違うモンスターの姿に目を奪われたのだ。
井上の試合が判定決着に終わるのは、2013年8月の田口良一戦、16年5月のデビッド・カルモナ戦、19年11月のノニト・ドネア戦に続いてキャリア4試合目となる。だが、今回のように「狙った判定決着」は初めてだ。
ADVERTISEMENT
そして井上がこの試合を機に、「ミスター判定」にスタイルを変えるわけではないことも書き記しておきたい。記者会見の最後にはこうも語っている。
「判定でもこうして魅せるというボクシングができたので今日は満足していますが、KOもボクシングの醍醐味として大切にしているので、どちらにしてもいいボクシングを見せていきたい」
試合後のリング上で、井上は「次戦は12月にサウジアラビアと聞いている」とかねて話に上っているビッグイベントへの出場を明言した。さらにはアラム氏の話をさえぎってマイクを握ると、「中谷くーん! あと1勝、12月お互いがんばって来年、東京ドームで盛り上げましょう」と会場を訪れていた中谷潤人(M.T)に呼びかけ、集まった1万6000人の観衆から喝采を浴びた。次戦以降の前景気をあおる得意の「予告」だけは、いつもと変わらなかった。

