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「負けても引退しないよ」千代の富士35歳「貴花田18歳に負けて引退」は本当か? じつは違った“最後の対戦相手”…元NHK名物アナが語る大横綱の引き際
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杉山邦博+荒井太郎Kunihiro Sugiyama + Taro Arai
photograph byJIJI PRESS
posted2025/09/14 11:14
千代の富士の断髪式。九重親方(当時/元横綱・北の富士)の手で最後のはさみが入った
負けた日の大鵬の言葉は忘れられませんね。大鵬が潔く辞めた。それでいいんです。ただ、翌日の取組が決まっているでしょう。だから「明日もう一日、土俵に上がってみなさんに最後の姿を見てもらってから辞めたい」と彼が言ったんです。そしたら当時の武蔵川理事長(元幕内出羽ノ花)がどこかで聞いたんでしょう。「だめだ。そんなことで土俵に上げるわけにはいかない」と。それで結果的にスパッと辞めた。10年もの間、横綱を張ってきたわけですから、これが最後の土俵だと思って終わればいいんだけど、しかし、勝負の世界は命を懸けて土俵に上がって真剣勝負をするわけですから、対戦相手に失礼だってわけですよ。これはほかのケースでもある話なんですが、実は大鵬さんにもそういうことがあったんです。それで引退を表明した、その日の夜に記者会見となった。ですから、記事に書いたりコメントしたりするのは「実に潔く辞めた」という表現でいいと私は思います。
荒井 最後の相手が若手ホープの貴ノ花というのもドラマチックというか、時代を象徴する出来事だと思います。
杉山 そうです。あの栃若時代の一方の雄、若乃花の弟に負けて、こういう人気力士、立派な後継者が出てきたんだということで、バトンタッチして土俵を去ったというほうが綺麗ですよね。見事な引き際だったと思います。昭和36年九州場所に柏戸、大鵬が同時に横綱に昇進して、一直線の相撲が大変魅力的だった柏戸さんが、昭和44年名古屋場所で引退するまで8年。大鵬さんが土俵の円を無限に使いこなすような四つ相撲で10 年、ともに綱を張って、それぞれ違うスタイルで土俵をけん引してきました。大鵬さんの引退で明白に一つの時代が終わりを告げましたね。
「千代の富士対貴花田」伝説の一番ウラ側
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荒井 余談になりますが、平成3年夏場所初日の千代の富士対貴花田の一番も、相撲史における時代の変わり目となった象徴的な相撲でしたね。
