- #1
- #2
大相撲PRESSBACK NUMBER
「負けても引退しないよ」千代の富士35歳「貴花田18歳に負けて引退」は本当か? じつは違った“最後の対戦相手”…元NHK名物アナが語る大横綱の引き際
text by

杉山邦博+荒井太郎Kunihiro Sugiyama + Taro Arai
photograph byJIJI PRESS
posted2025/09/14 11:14
千代の富士の断髪式。九重親方(当時/元横綱・北の富士)の手で最後のはさみが入った
杉山 横綱千代の富士が負けましたけど、1月、3月ごろから千代の富士と貴花田、のちの貴乃花、両者はいつ当たるんだろう、早く見たいというのはあちこちから望まれていたんですね。鏡山審判部長が何日目に対戦させるかというのを、みんなあれこれ詮索していました。そこで鏡山さんが、「俺の決断で決めた!」ってことを何度も本人の口から聞いています。「初日しかない! そう思って俺が決めた。どちらかが一つでも黒星がついたり、何かあったりとかそういう状況じゃなくて、まっさらな状況で2人が対戦するほうが綺麗だ」と。これは鏡山さん、さすがですよ。ほかの審判だったらどうか分かりません。それであのタイミングで実現したんですけど、負けた千代の富士はその日には引退しなかったんだよね。
荒井 慣例でいくと初日の横綱の対戦相手は、違う方屋の小結となるところですね。この場所は4横綱ですが東西の正横綱である北勝海、大乃国が初日から休場なので、西の張出横綱だった千代の富士は東小結の寺尾あたりになるところですが、あえて西前頭筆頭の18歳9カ月の貴花田をもってきた。これは審判部の大英断です。結果的にこの一番で、貴花田が今も破られていない史上最年少金星を挙げることになります。千代の富士さんは「負けても引退しないよ」と言っていたんですがね(笑)。このとき35歳11カ月です。
じつは「貴闘力に負けて引退」だったが…
杉山 3日目に貴闘力に負けて引退を表明しましたね。ただ、貴乃花に負けて引退したって、みんなそういうふうに書いたり言ったりしています。それでいいんじゃないですか。そっちのほうが時代を象徴しているし、綺麗ですから。
ADVERTISEMENT
荒井 僕は実際に千代の富士さんにインタビューしたとき、やはり貴花田に負けて引退を決意したと言っていました。
杉山 それでいいと思いますよ。
荒井 これも余談ですが、千代の富士の引退表明は師弟とも話して4日目の予定だったらしいですが、3日目の夜に急遽、親方の北の富士さんがマスコミに喋ってしまったんで、このタイミングになったそうです。自宅でテレビを見ていたら、「千代の富士引退」というテロップが出て、本人が一番驚いたそうです(笑)。それで急いで部屋に駆けつけたとおっしゃっていました。
杉山 マスコミが大挙して部屋に押しかけていましたからね。北の富士さんも収拾がつかずに言ってしまったんでしょう。
<続く>
『杉山アナのアンチ巨人、大鵬、卵焼き』(大空出版)※書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

