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高校生クイズに人生を懸けた双子の天才「パワー系の種目はやめて…」難問の救世主となった“3人目の男”「番組側も想定外だった」まさかの行動とは?
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph byNanae Suzuki
posted2025/09/09 11:02
2018年の『高校生クイズ』で優勝し、現在はQuizKnockに所属する東問と東言
キーマンとなった“もう一人”の仲間
結果的に、このラウンドが大会における桜丘の最大の見せ場となる。
端緒となったのは、この年の予選前に「地頭力」のコンセプト紹介として芸能人たちが解いていたクイズの答えだ。その解答は、プール一杯に詰め込まれた風船を「リモネン」という化学物質を染み込ませたタオルで彼女たちが次々と割っていくというものだった。「リモネン」は柑橘類の皮に多く含まれる天然の化合物で、ゴム類を溶解する作用がある。
一度はその破天荒なテーマに「終わった」とまで思わされた映像である。だからこそ、この課題が与えられたときに「あ、似たようなことを例題でやっていたなぁ」とその場面が桜丘チームの頭にフラッシュバックしたのは自然なことだったのかもしれない。
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そこでキーマンとなったのは、東兄弟ではなく“3人目”の小林雅也だった。
小林は日本トップクラスだった双子と比すれば、競技クイズ的には明らかにその実力は格下だった。ただその分、良くも悪くも双子が気づきにくい『高校生クイズ』ならではのポイントに気付くことも多かった。
件の例題では「リモネン」の抽出にはシンプルに柑橘類を使っていた。だが、実は「リモネン」はその性質を利用してシールなどの剥がし液にも使われている。
「小林君が買い出しの時に、『文房具店なら剥がし液スプレーがあるはず』と言い出して。『うまくいけば、それで風船が割れるはず』と」(問)
仮に、そのスプレーで風船が割れるとしたら。そして、そのことに他のチームが気づいていないとしたら。それは、その時点で圧倒的に優位に立ったことになる。
なぜなら、「物理」で考えれば文具店に置いてあるような鋭利な何かで一つずつ風船を割らなければならないのに対し、スプレーであれば「化学」の力で広範囲の風船を一気に割ることができるからだ。
そして、実際に剥がし液スプレーは、店内にあった。
番組側が想定できなかった“ある事態”に…
ただ、実際にそのスプレーで風船が割れるかは、やってみるまで分からない。そのため、他チームもチョイスしたような鋲や針も念のため購入した。
控室に戻った3人は、恐る恐る実験用の風船にスプレーを吹きかけてみた。すると風船は――見事に音を立てて割れた。
「多分、番組側もスプレーを使うことは想定してなかったんですよね。消防法の関係で、スタジオ内ではできないから駐車場にセットを組み直すとかで、挑戦順が最後になりましたから(笑)。しかも僕らだけ外なんで、風船が飛んでっちゃったら自分たちだけ減点なんですよ。だから本当にスプレーで割り切れるのか、始まるまで結構不安はありました」(問)
ただ、実際に準決勝がはじまると、その心配は杞憂に終わる。
3人は圧倒的な速度で風船を割り続けた。それは、他チームとはまさに桁違いの速度だった。
こうして、桜丘は準決勝を1位通過。ラ・サール、横浜サイエンスフロンティアとの決勝にコマを進めた。
異例の「クイズのための転校」を経て、まさかの大会コンセプトという難題も跳ね返し、全国大会で残り3校までたどり着いた。それは、まさに異常な執念のなせる業だった。
(撮影=鈴木七絵)
