甲子園の風BACK NUMBER
「0-19で初戦敗退…これが現在地なんだよ」大阪桐蔭・西谷監督が認めた“北のイチロー”は部員4人の野球部を救うのか? 元オリックス吉田雄人30歳の挑戦
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米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2025/08/27 11:25
この春、廃部となっていた森高校野球部を復活させた吉田雄人監督(30歳)。オリックスで外野手として5年間プレーした
初めての夏も、函館支部予選の初戦で強豪の知内高と当たり0-10、5回コールド負けだった。
八雲高の選手がヒットを放ったが、春も夏も、森高の4人はまだ公式戦で1本もヒットを打てていない。
練習では吉田が打撃投手を務めてきた。森町の誇りである駒ヶ岳を背に、毎日約250球投げ続けてきたが、その成果はまだ。だが1本ヒットを打つことの難しさを身をもって知る吉田はめげない。
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監督の仕事はどうですか? インタビューの最初にそう聞くと吉田はニヤッと笑った。
「まず何より、楽しいっすね。それが一番に来ます。プロ野球選手を志すより先に、高校野球の監督をやりたいなと高校時代に思っていたので、やっぱり性に合っています。いろんなことに考えを巡らせなきゃいけなくて疲れる部分はもちろんありますけど、何より楽しいからやれています」
自身は3度甲子園に出場し、高校日本代表での活躍を経て、プロ入り。その経歴を知る地元の友達に心配されることもある。
「『そんな経験してきて、今このレベルでよくできるな』と言われることもありますけど、全然、やめたいなんて1ミリも思わないし、毎日成長している彼らを見ると楽しさしかない。めちゃくちゃいいじゃん、ドラマチックじゃん、と思いますね。
今となっては、強豪校とか、ある程度カタチのあるところに行かなくてよかった、ゼロから、この超弱いところから始めてよかったなと思います。上がるしかないし、他の人ができない経験ですから」
「やっぱりすごい。なんでもできちゃう」
練習中、一番動き回っているのは監督の吉田かもしれない。守備練習ではノックを打つが、取材に訪れた日は塚原裕一部長が見事なノックデビューを果たし、吉田は一塁で選手の送球を受けた。
吉田のグラブには「あだちりょういち」と刺繍されている。2016年にオリックスの正遊撃手だった安達了一が潰瘍性大腸炎を患い、外野手の吉田がショートをやることになった際、安達から贈られたものだ。
そのグラブをはめて見本を見せることもある。キャッチャーの渡部大河は、「やっぱりすごい。全然違います。キャッチャーも、なんでもできちゃう」と目を輝かせる。
オリックスでもがき苦しんだからこそ多くの引き出しができたと、今はプロでの5年間を肯定できるようになった。
「いろんな人の打撃指導を受けて、考え方や技術を聞いたり、内野手も経験したことはものすごく大きい。あの5年間はめちゃくちゃ生きているし、あれがなかったら今はないと思います」
高校3年の時、吉田をプロ入りへと後押ししたのは、意外な人物だった。その年、高校日本代表の監督を務めていた大阪桐蔭高の西谷浩一監督である。



