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“最強を倒した男”伊藤匠にズバリ聞いた「藤井聡太との棋力差」その答えは…? 王座戦五番勝負を前に明かした本音「相変わらず強いです」
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/20 06:00
藤井聡太への偽らざる本音を伊藤匠が明かしたインタビュー
伊藤にズバリ聞いた「藤井との棋力差」
将棋界には「防衛して一人前」という格言がある。奪取は勢いでできるが、失うものがある防衛は真の実力がないと成し遂げられないという意味だ。この格言について伊藤に聞くと苦笑しながら、「防衛しても一人前の感覚はありません。まだまだ課題がありますし」と語った。
その課題は、藤井聡太と叡王戦以来の対戦となる王座戦にも当てはまるという。
「中盤でバランスを保つ技術が身についていない」と語る。現代将棋の相居飛車の定跡形はAI(人工知能)で細かく研究する。ただ分岐が多すぎて最後まではできない。準備した知識はどこかで途切れてしまうが、そこまでの組み立てをAIに頼っているため、自力で考え始める局面が異様に難しく間違えやすいのだ。
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「局面の理解度を上げることが大事です。多少、形は違っても応用が利くので」
そのためにはどうすればいいか尋ねると、「いや、わからないです。永遠の課題ですね」とシリアスな声で話した。
伊藤に叡王戦で敗れた後、藤井はすべてのタイトルを防衛して相変わらずの強さを見せつけている。最近の藤井将棋にどんな印象を抱いているのだろうか。
「相変わらず強いです」。まずそう言ってから「指していないけど、状態が悪くないことはわかります。永瀬拓矢九段とのタイトル戦も読みの深さを感じます」。
藤井と自身の棋力差は縮まっているのか。「いないと思います。自分の棋力が伸びている実感はないですから」と相変わらず自分に厳しいが、本音なのだろう。五番勝負はどこに勝機を見出すのか。
「もちろん勝つことができればいいですが、タイトル戦なのでどういう将棋を指せるかが大事です。中盤戦の辺りから均衡が取れた将棋を指したい。そういう将棋を指していくしかない」と伊藤は繰り返した。先ほど挙げていた課題に通じる話だ。なかなか明るい話にはならないが、そもそも将棋棋士から勝利宣言が出ることはない。楽観論ですら珍しい。自身と藤井をクールに見据えた発言ばかりだったが、取材の最後に聞いた王座戦への抱負で意外なトーンの言葉が聞けた。
「相手は藤井さんなので厳しい戦いになる。でも去年の叡王戦以来なので、自分がどれくらい指せるか楽しみです」
伊藤から「楽しみ」という単語を聞いたのは、これが初めてだった気がする。
伊藤匠Takumi Ito
2002年10月10日生、東京都出身。宮田利男八段門下。'20年四段、'23年七段。'24年に叡王戦を制し、初戴冠。'25年にはタイトル戦初防衛に成功し、八段に昇段した。得意戦法は相掛かりと角換わり。
