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「序盤で…敗着級ミスです」「この内容は情けない」33歳棋士がタイトル初挑戦2局目でガク然「でも藤井聡太棋聖が盲点を突いたのは事実です」
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa/日本将棋連盟
posted2025/08/10 11:01
藤井聡太七冠と相まみえた杉本和陽六段。棋聖戦第2局は悔しい敗戦だったという
「いやでも、ミスのレベルとしては初歩的でしょう。ちょっとやらかしちゃったなと」
――指してすぐにまずいと気づいたのですか?
「それが気づいてないんですよね。互角を維持していると思って、その後も一生懸命考えていました。でもなんか息苦しいな、という感覚がずっと続いていたんです。後手振り飛車の苦しさでこうなったのか、でもさすがにこんなに苦しいのは変だな、みたいな。全然気づいていないから、むしろどこで間違えたんだろうぐらいのマインドでずっといました。指してすぐに気づいていたら、さすがに耐えられなかったと思います。対局が終わってAIの評価値を見たら、序盤の1分で指した手が敗着級だったという。後で気づいたときには愕然として、虚無感がありましたね」
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――気づいたのは感想戦ですか?
「いや、感想戦で代案は教えていただきましたが、△4四銀が疑問という話にまではならなかったんです。対局が終わると預けていたスマホが返却されるので、打ち上げの前にモバイル中継の評価値を見たら、あ、序盤でやっちゃってるんだとわかって。関係者や観戦してくださった方、みなさんに申し訳ないなと思いましたね」
でも藤井棋聖が“盲点”をついてきているのも事実です
――藤井棋聖がどうこうというより、自分で転んだということでしょうか?
「でも、こちらの盲点になるところを藤井棋聖が突いてきているのも事実なんです。序盤で藤井棋聖が左銀を6八~5七と動かしてきました。そういう囲いがあることは知ってたんですけど、振り飛車からの目線だとそれは先手の玉が薄くなるので、そこまで突き詰めて考えていなかったんです。それで『これには△4四銀と出る』と、他の形と混同して覚えていた知識をパッと指してしまった。こちらの認識が手薄なところで腰を落ち着けることができなかったのがよくなかったですね。後手振り飛車をイマイチ信用できなかった自分の気持ちも含めて、ミスにつながってしまった気がします」
――藤井棋聖は第1局では穴熊に固く囲ってきましたが、第2局は少し薄い形に変えてきたのですね。
「そうですね。第1局の藤井棋聖の指し方から持久戦のイメージが強くなっていたのですが、第2局は違っていました。敵玉が薄いのにこちらがあんまり堅くすると、局面のバランスが崩れてしまうんです。だからお互いに薄い囲いの戦いになりやすいのですが、そのあたりは戦略的に変えられたような気がしています。第1局の穴熊戦が思ったより終盤まで互角の戦いだったので、そこからこちらのウィークポイントを見抜かれたのかな、と。藤井棋聖にそこまでの意識はないかもしれないのですが、こちらからするとそう感じました」
タイトル戦でこの内容は情けない
――こういう負け方は精神的に堪えそうですが、いかがでしたか?
「きつかったです。関係者の方々が本当にいい方ばかりで、残念な将棋を指しても温かく接してくださった。それが逆に刺さりましたね。至れり尽くせりというか、対局者ファーストで運営していただいたのに、タイトル戦でこの内容は情けないという申し訳ない気持ちでいっぱいでした」〈つづく〉

