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もうひとつの「野村再生工場」…カープの若手に経験のすべてを伝える野村祐輔三軍コーチの現役時代になかった充実の日々
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前原淳Jun Maehara
photograph bySankei Shimbun
posted2025/08/04 11:05
春季キャンプでの野村コーチ。まだ36歳だけあって、現役選手のように若々しい
野村イズムは若い投手を中心に浸透している。辻に限らず選手への取材をする中で、「祐輔さん」と野村コーチの名前を耳にする機会が増えた。177cmの体でプロを13年生き抜いた経験もあり、自分の型を押しつけようとはしない。
「元々どこかひとつの力に頼って投げられる体格ではなかったので、細かいところまで突き詰めてやって来ました。それぞれの筋肉や関節をどう使うのか。それらを効率良く動かすためにどの箇所が重要なのか……すごく勉強しました。最近は体が大きな投手が多いですけど、体格にだけ頼って投げられるわけではないですからね」
現役時代、腰痛や背中の筋挫傷、右鎖骨下静脈血栓症除去術と、度重なるケガで球速が落ちた。それでも、そのときどきの最大値を発揮する術を探り、実践してきたからこそ、いま伝えられることがある。
「今はすごくおもしろい」
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野村には「アナリスト」という肩書きもある。二軍先発投手の登板翌日には、練習後に選手本人、専任アナリスト、そして野村の三者で試合映像を見ながら分析を行う。本人の意見とアナリストの見解を聞きながら、次回登板へ向けたテーマを共有する。それは野村にとっても学びの場となる。
「データ化されたものを知ることは大事だなと思いますし、面白い発見もある。現役のときはそういう話をしてもらえる環境がなかった。自分でいくら研究してもたどり着けなかった世界なので、今はすごくおもしろいですね」
日々メモをとりながら、アナリストとしての知識も蓄積している。もちろん、数値化されるものがすべてではない。「球の強さ」は回転数や回転軸などでは測れない。実際に球を受けたり、目で見たりすることが大切になる。コーチとアナリストを兼任することになるが、野村はそんな日々に充実感を持って奔走している。
コーチの語源は「COACH=馬車」。大切な人や物を目的地まで運ぶことに由来する。三軍コーチという立場で、教えるのではなく導く存在として、野村は広島を未来に運んでいる。
