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「ここまで来たなら先発で終わりたいなって」広島カープ一筋“211試合連続先発登板”日本記録の野村祐輔(35歳)が余力を残して引退したワケ
posted2024/11/21 17:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Asami Enomoto
発売中のNumber1108号に掲載の[先発投手のまま引退]野村祐輔「球速よりも大切なもの」より内容を一部抜粋してお届けします。
ここまで来たら先発で終わりたい
野村祐輔は、髪をなびかせる秋風を感じていた。オフに入っても、眉間にしわを寄せることはない。昨年までならシーズン終了後しばらく、都内のパーソナルトレーナーに体のメンテナンスをしてもらい、来季へ向けた強化ポイントを明確にした上で調整プランを練っていた。
「来年のことを考えなくていいので、体が軽くなった感じがします。やらないといけないことがないから、逆に何しようかなっていう感じです」
ふと、腰のあたりが気になっても、不安にならなくていい安堵感が心地よい。不思議なほど、そこに寂しさは感じていない。今もひじや腰に残る違和感は、野村にとってプロ野球界の猛者を相手に全身を使って戦ってきたことの勲章のようなものだ。
177cm。投手として上背があるわけではなかった。打者を押し込める剛球を投げられるわけでも、バットに空を切らせるような魔球を持っていたわけでもない。制球力を武器とし、両サイドを丁寧に突きながらチェンジアップやカーブの遅球を効果的に使う。プロ入りから13年連続で一軍マウンドに立ち、デビュー登板から211試合連続先発登板という日本記録を残した。
「いろんなポジションをやるのも素晴らしいことですが、先発でスタートして、一度もリリーフせず、せっかくここまで来たなら先発で終わりたいなって」
いつもまっさらなマウンドに上がってきた。自分が1球目を投じて、試合が動き始める。投手分業制が確立された今も、9イニングの半分以上を先発が投げる。試合を作るも、壊すも先発次第。その試合を背負う責任感も重圧も、いつしか充実感に変わった。ゲームメイクする難しさも先発の醍醐味だ。
余力を残しての決断
もしかしたら、中継ぎとしてユニホームを着続けることができたかもしれない。勝ちパターンではなくとも、ロングリリーフという役割に適性を見いだせた可能性もある。残した実績や年齢を考えると、現役生活にしがみつくことはできたかもしれない。それでも、野村はきっぱりと自ら幕引きをした。