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「あれ、阪神スカウトだけ来てないぞ…」他球団が恐れた阪神タイガース“宝探し”の極意とは? 緻密で大胆なドラフト戦略「昔より真面目なスカウトが増えた」 

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西尾典文

西尾典文Norifumi Nishio

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posted2025/07/26 11:01

「あれ、阪神スカウトだけ来てないぞ…」他球団が恐れた阪神タイガース“宝探し”の極意とは? 緻密で大胆なドラフト戦略「昔より真面目なスカウトが増えた」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

ゲーム差9.5をつけてセ・リーグ首位を独走する阪神タイガース

 また、5位の村上は東洋大の下級生の頃から活躍していた選手だが、最終学年になってから前腕を故障し、4年秋のリーグ戦では満足に投げることができなかった投手である。コロナ禍で試合が少ない中で、さらにその機会でもパフォーマンスを発揮できないとなれば指名するのには勇気がいったはずだが、回復すれば大丈夫という見込みで阪神は指名に踏み切り、結果としてエースへと成長を遂げた。このあたりも表には出てこない部分の調査が奏功したと言えそうだ。

 中野と石井についてもプロで勝負するには上背のなさが気になるタイプの選手と言えるが、中野はパンチ力とスピード、石井はスピードに加えてシンカーという独特の縦の変化球があったことが評価されて指名に繋がったという。他球団がリスクを恐れて手を出しづらかった選手を、下位で指名して主力選手にするというのはドラフトにおける醍醐味の一つであり、2020年はそれが顕著に出た年と言える。

他球団と比べて“育成指名”が少ない

 このようにスカウト陣が重点的にマークしている選手に集中できる裏には、別の独自戦略があることも確かだ。それは他球団と比べて育成ドラフトで指名する選手が少ないという点である。

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 育成ドラフト出身の選手としては、巨人の山口鉄也や松本哲也を皮切りに、ソフトバンクは千賀滉大や甲斐拓也、牧原大成などが主力となり、主にこの2球団が毎年多くの選手を指名している。この流れに続くようにオリックスや西武なども育成ドラフトでの指名人数を増やしており、三軍以下のチームを編成する球団も増えている。ただ、活躍した選手にはスポットライトが当たる一方で、成功する確率という意味では決して高くはない。

 そんな中で阪神は今年ファームの新球場が開場したこともあって昨年のドラフトでは4人の育成選手を指名したものの、それ以前の10年間は最大でも2人にとどまっているのだ。また、指名している選手は全て大学生、独立リーグ、NPBファーム球団の選手であり高校生は一人もいない。このあたりも育成で大量に高校生を指名する巨人やソフトバンクのやり方とは異なっている。

 どちらが正解かという答えは明確にあるものではないが、阪神のようなやり方にもメリットがあることは確かだ。それは指名対象とする選手をある程度絞り込むことで、精度が上がる可能性があるということである。育成ドラフトで大量に選手を指名しようとすると、当然それだけ多くの選手を視察する必要があり、一人の選手に対して調査できる回数は減ることになる。特に高校生の場合は、最終学年で一気に力をつけてくるケースが多く、判断するために実際にプレーを見る機会は大学生、社会人、独立リーグの選手と比べると圧倒的に少なくなる。

 極端な言い方をすれば、高校生を育成で指名するというのはそれだけギャンブル的な要素が強く、阪神はあえてその部分を捨てているとも言えるだろう。NPBはメジャーのようにマイナーリーグの下部組織があるわけではなく、支配下の選手枠が70人と決められている中では、阪神のやり方は効率的とも考えられる。

【次ページ】 二軍も有望株の“宝庫”に

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