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格闘技PRESSBACK NUMBER
「イノキは賭けに出ず、床に寝転がり…」あの伝説の「猪木アリ状態」はなぜ起こった? 世紀の一戦から49年…アリの“肉声テープ”で分かった新事実
text by

欠端大林Hiroki Kakehata
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/26 11:03
今から49年前のモハメド・アリとアントニオ猪木の異種格闘技戦。試合がはじまると猪木はマットに寝ころび、いわゆる「猪木アリ状態」に
アリはこう語っている。
《アメリカには、ボクシングやレスリングのアンダーワールドをよく知っている連中がごまんといる。全力で殴っていないのにイノキが傷つけられたふりをしたり……俺がわざとらしく、腕をねじり上げられたふりをしたりすれば……本気でないとすぐにわかる……そういうことには、かかわるわけにはいかない……だから……これは打ち合わせなしの試合にしなくちゃならない……打ち合わせなしの、リアルでやるものでなくちゃならない》
アリは冒頭、「試合はエキシビションでやる」と宣言しながら、ここでは「リアルでやるべきだ」と言い出した。一体、どっちなのか。アリはこう続けている。
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《リアルというのは、ボクサーじゃないイノキは打たれるような賭けに出ず、床に寝転がり、レスラーじゃない俺も、レスリングの蹴りをくらったりしない……そして、ボクサーでないイノキは俺を倒せなかったことを恥じる必要はないし、レスラーじゃない俺もイノキに勝てなかったことを恥じる必要はない、ちっとも。
だから、これから行われることになっているこの試合は……エキシビションだと観客に知っておいてもらわなくちゃならない……本当に危害を加えあったりしないということを……最初に考えられた企画のとおりに》
リアルか、エキシビジョンか…アリの結論は?
ここでアリはひとつの結論を述べている。
試合はあくまでエキシビションでやるべきだが、それは必ずしもプロレスの試合のような「見せ場」を意図的に作る必要はなく、互いに危害を加えないという約束を守って、あとは「台本なし」の試合に臨む。それがアリの言う「リアル」だったのである。
ここで興味深いのは、アリの口から「床に寝転がる」(laid on the floor)という言葉が発せられていることだ。あくまでリアルファイトを望む猪木に対する、アリ側の「落としどころ」とも受け取れる発言だが、この内容を猪木は事前に知っていたのだろうか。
猪木と、アリ側との交渉を担当した新間寿氏がともに他界したいまとなっては、残念ながらそれを確認する術はない。
猪木は床に寝て戦う戦術について「リング上でアリを前にしたとき、私の格闘家としての本能があの戦法を選んだのだとしか言いようがないのだ」(『真実』/ゴマブックス刊)と語っているが、ゴングが鳴ってからのとっさの決断というのは、いささか信憑性に欠ける。


