「イノキは賭けに出ず、床に寝転がり…」あの伝説の「猪木アリ状態」はなぜ起こった？ 世紀の一戦から49年…アリの“肉声テープ”で分かった新事実 

　試合2日前の夜、猪木は日蓮宗権大僧正の日恵上人と面会し「アリの武器が腕なら、それより長いもので戦いなさい」とアドバイスを受けている。

　これは「キックで対抗しなさい」というプロレス式の伏線でもあり、このやりとりをわざわざ『東京スポーツ』が報じているところを見ると、このときすでに猪木はルールで禁じられなかった数少ないプロレス技の1つである「アリキック」で戦うことを決めていたと考えるのが自然だろう。

　アリは最後、猪木側に対しこう通告している。

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《リアルでやると言うのなら、俺たちはリアルでやる。イノキがベストを尽くして、俺をホールドすることができるかもしれない。俺もイノキをノックアウトするかもしれないし、そうはいかないかもしれない……だがリアルでやるとすれば、もう少ししっかりしたパンチを繰り出すことになる。

　そしてリアルでやる場合には、向こうに伝えてもらいたい。その場合は、床に寝転がるとか、やっていいこと、いけないことについての規則が課せられるということを》

　もし猪木がどうしてもガチンコで来るというなら、自分は受けて立つという宣言である。しかしその場合には「パンチを回避するために床に寝て戦うといった作戦も認めない可能性があるぞ」ということをアリは言っている。

寝ころんだままアリにキックする猪木。ルールのギリギリを突いた攻防でもあった ©KYODO

　実際の交渉は、アリが予告した通りの展開になった。ルール問題はとことん紛糾したが、これはアリ側の横暴というよりも、事前に想定されたことだったのである。

試合2日前に決定…「最終ルール」の中身

　試合2日前に決定した最終ルールでは、床に寝て戦うということ自体は禁止されなかったが、プロレスで通常認められているキックは禁止とされた。ただし「ヒザをついたりしゃがんでいる状態のときは、足または足の甲、側を使って、相手を倒す足払いは認められる」という一文が入ったことで、猪木は最終的に戦いのイメージを固めたはずである。

　この試合を何としてでも実現したかったのは、猪木もアリも同じだった。アリ側は「ルール改正を認めなければ、アリはケガをして帰国することになる」と圧力をかけたが、どんな契約であれ、試合が頓挫してしまった場合、新日本が巨額のファイトマネーを素直に支払うことはあり得ないし、全米でのクローズドサーキット（劇場などでの有料中継）の収益もなくなる。

　試合がなくなって困るのは、むしろアリ側だった。

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