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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「笑って投げなさい」日本ハム・田中正義が新庄剛志監督に言われた“驚きのフレーズ”「このチャンスを逃したら、野球人生が終わる」
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2025/07/01 17:00
新庄剛志監督から「笑って投げなさい」と言われ、笑顔を意識するようになったという日本ハムの田中正義投手
創価大時代は最速156kmを誇り、16年のドラフトでは「超目玉」と騒がれて5球団が抽選で競った逸材である。即戦力としてホークスに入団したが、1年目から故障に見舞われた。右肩の不調で一軍戦に登板できず、二軍でもわずか1試合に投げただけだった。2年目以降も体調不良や右肘、左足首、右肩とケガが相次ぎ、ずっと苦闘してきた。
ホークスでの6年間は34試合の登板にとどまり、1勝も挙げられずにいた。
田中の転機になったのは23年のシーズンである。
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1月。ファイターズは近藤健介がフリーエージェント権を行使してホークスに移籍したことで、その人的補償として田中を指名した。7年前のドラフト時にもファイターズは獲得を目指しながら、田中をクジで外した経緯があった。もともと“意中の人”である。チームは前年に最下位を独走し、チーム防御率3.46もリーグ5位だった。投手陣の整備が課題になるなかで、新庄も創価大時代の映像を確認して球威を評価し、田中に白羽の矢を立てた。
新庄からかけられた驚きのフレーズ
新天地で迎えた2月の沖縄・名護キャンプで、田中は先発を希望し、ローテーション入りを目指していた。初めてブルペンで投げていると、新庄に声をかけられた。
「力んでもいいことないから、笑って投げなさい」
田中は驚いた。ホークスでは言われたことがないフレーズだったからだ。
快速球右腕。ドラフト1位の即戦力。ホークスにいるあいだは、故障で満足に投げられず、そうした金看板が次第に田中の重荷になっていった。いつしか顔はこわばり、悲壮感すら漂わせた。
だから、キャンプの最初のブルペンで新庄から「笑う」という言葉を聞いて、呆気にとられると同時に背負っていた荷が軽くなった気がした。田中は振り返る。
「おそらく監督は僕の性格をよく観察していたのだと思います。ああやって言ってもらってから笑顔を意識するようになりましたし、肩の力を抜くことができるようになりました」
新庄の田中へのアプローチは絶妙だった。
実は背中に背負う荷を軽くしたのではない。むしろ、新しく重い荷を背負わせていた。
いきなり「勝ち試合」で起用
オープン戦が本格化した3月中旬、田中は投手コーチを通じて起用方針が伝えられていた。2月まで先発で調整していたが、手薄で不安視されたリリーフに配置転換。そして、コーチからこのように言われたという。
「『勝ち試合でいく』と監督が言っているから準備しとけよ」
球界の常識にとらわれない用兵だといえるだろう。

