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ツバメのさえずり日誌BACK NUMBER
「ぶっ潰してやろう」ヤクルト小川泰弘が振り返る菅野智之・藤浪晋太郎を抑えての“最多勝・新人王”W獲り「1年目から“今年に賭けるしかない”と」
posted2025/08/27 17:00
新人王を獲得した2013年の小川の躍動感溢れる投球
text by

佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
JIJI PRESS
プロ野球は終盤を迎え、ペナントレースの行方とともに新人王争いにも注目が集まっている。近年の新人王レースでスター揃いの期として最も注目を集めたのは、2012年ドラフト組だろう。大谷翔平、藤浪晋太郎、菅野智之……。煌めく才能たちがプロ野球選手として一歩を踏み出した翌2013年シーズン、しかし、注目の新人王に輝いたのは意外な男だった。東京ヤクルトスワローズにドラフト2位で入団した小川泰弘投手。プロ1年目にセ・リーグ最多勝と新人王を両獲りした右腕はなぜ、“無印”の存在からスターダムを駆け上がったのか。「ルーキーイヤー」をテーマにインタビューした。〈全2回の前編/後編を読む〉
「ぶっ潰してやろうという気持ちで向かっていきました」
穏やかな語り口から出てきた小川泰弘の強い言葉に、番記者たちは思わず目を見開いた。
ルーキー・小川泰弘の強気
それは2013年2月18日、浦添キャンプ中のヤクルトと、韓国プロ野球・KIAタイガースとの練習試合でのこと。この試合でプロ初登板した小川は、4回からマウンドに上がり2回無失点と好投した。特に2イニング目の5回、先頭の4番打者チェ・ヒソプへの投球は圧巻だった。
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ドジャースなど3球団に所属した元メジャーリーガーで2006年WBC韓国代表の主砲に対して、2ストライクと追い込んでから7球連続の直球勝負。身長1m96cmの大男に対して、1m71cmの右腕が内角攻めも厭わない真っ向勝負で立ち向かっていったのだ。のどかな沖縄キャンプ中の練習試合のなかで、ただ一人、鬼気迫る空気感を纏い投げ込む右腕の姿に、誰もが息を呑んだ。
中継ぎ候補の一人でしかなかった
「自分は売り出していくしかないので」
その言葉通り、この時の小川はまだ何者でもなかった。メジャー通算324勝のノーラン・ライアンそっくりの投球フォームこそ注目を集めていたが、この時点では中継ぎ候補の一人。先発候補として調整を重ねていたのはドラフト1位右腕の石山泰稚の方で、同2位の小川はとにかくアピールし続けなければいけない立場だったのだ。
当時のことを尋ねると小川はふふっと笑い、ひと言「ぶっ潰すなんて言っていました? 若かったですね」。そしてこう続けた。

