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ツバメのさえずり日誌BACK NUMBER
「ぶっ潰してやろう」ヤクルト小川泰弘が振り返る菅野智之・藤浪晋太郎を抑えての“最多勝・新人王”W獲り「1年目から“今年に賭けるしかない”と」
text by

佐藤春佳Haruka Sato
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/27 17:00
新人王を獲得した2013年の小川の躍動感溢れる投球
菅野、藤浪より先に初勝利
キャンプから対外試合4試合で14回無失点の猛アピールが実り、小川は開幕ローテーション入りを果たす。公式戦プロ初先発は4月3日、マツダスタジアムでの広島戦。足元がフワフワするような緊張感の中、必死で腕を振った。初先発は7回途中103球で2失点。12球団のルーキーの中で大きな注目を集めていた菅野でも藤浪でもなく、“ライアン小川”が一番乗りで初白星を挙げた。
「めちゃくちゃ緊張していましたね。ベンチ裏でストレッチをしていた石川(雅規)さんが『ライアン、緊張しているの? 楽しんでいけよ』と声をかけてくれたのを覚えています。ストライク1個、アウト1つ取るたびワクワク感が出てきて、打線の援護ももらえて勝つことができましたね」
今でも忘れられないのは、初勝利の夜のことだという。寝ようとして目を閉じると、大歓声が覆いかぶさってくるような感覚に襲われた。それはまるで、1日中海で遊んだ子供がまぶたに大きな波のうねりと波音を浮かべるような感覚だった。
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「目を閉じたら耳鳴りがするんですよ。広島の応援が襲ってくるみたいな感じで凄い歓声が鳴っている。『凄い、これがプロか』と思いました。でも、あんな感覚は1回きり。その後は何度投げてもそんなことはなかった」
プロの洗礼を浴びた小川に……
小川は続く中日戦でも白星を挙げて2戦2勝。4月27日、巨人戦では菅野智之とのルーキー対決を制して、3連勝を飾った。しかし、5月に入ると右腕の前に大きな“壁”が立ちはだかる。
5月4日の阪神戦で1回に5安打2盗塁を許すなど6失点。再び阪神と対戦した11日の試合でも4回5失点と苦しんだ。左脚を大きく上げるモーションや、投球のクセが見透かされたような声も聞こえてきた。どんな好投手でも、データがそろえば対戦相手は必ず分析し対策を立ててくる。これがプロの洗礼だった。
キャンプから全力で飛ばし、疲労も蓄積してくるタイミングだった。ここが正念場。悩んでいた小川に、敵チームのあるベテラン選手が声をかけてきた。
〈つづく〉

