「なんでもっと手を出さないんだ」中谷潤人だけが気付いていた“西田凌佑の異変”…まさかの右肩脱臼「完敗やなと。あれも中谷選手の強さ」激闘ウラ側 

中谷潤人だけが気付いていた西田凌佑の“異変”

　ただ一人、西田の異変にいち早く気が付いていたのが中谷だった。中谷は表情を変えずにこう言ってのけた。

「3ラウンドが終わったとき、西田選手が肩を気にしていたので、非情ですけど、勝つためにそこを狙っていった感じです」

右肩を気にする素振りを見せる西田凌佑　©Takuya Sugiyama

　西田がどのような理由で肩を脱臼したのかは分からない。ただ、中谷はこの日、あえて西田のガードの上を叩き、腕にも意図的にパンチを打ち込んだ。相手にダメージを与えるのはアゴやテンプル、レバーといった急所だけではないのだ。

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「腕にパンチを受けると、腕が重くなっていくんです。そうするとガードが下がっていって、手も出なくなっていく。引き出しとしては持ってました。ただ、今までつぶしにいくような試合をしていなかったので」（中谷）

　中谷は冷酷に西田をつぶしにいった。偶然のバッティングで右眼が大きく腫れた西田は5回に入ると勢いを持続できず、流れは中谷に大きく傾く。6回も中谷が自在に動き、左フックで西田の顔面、そして異変の起きた右肩を攻めた。

　6回を終えたインターバルだった。武市トレーナーが「もっと手数を増やせ」と西田を励ますと、本人から「肩が外れました」と衝撃の告白が。右目の腫れも大きく、陣営は棄権を決断した。

西田陣営が棄権を申し出たことで、中谷潤人がWBC・IBF統一王者となった　©Takuya Sugiyama

　あっけない幕切れにも、リング上の中谷は満足そうな表情を浮かべた。「ダメージは与えられていると見て取れたので、（続いたとしても）そこまで長くはならないだろうという感覚は持っていました」。勝利は時間の問題だと確信していた。

　一方の西田は「不完全燃焼か」との問いに「完敗やなと思ってます。肩をやられるというのも中谷選手の強さだと思う。やられたなという感じです。何も言い訳はないです」と自ら完敗だと認めた。負傷した右腕を三角巾で吊る姿が痛々しかった。

　新たなファイトスタイルを披露し「自信になった」という中谷はこれで夢の井上戦にまた一歩前進した。井上は試合後、Xにすかさず「スーパーバンタム級戦線へようこそ　こんな強い日本人がいたらワクワクしちゃうよな」と投稿した。夢の日本人対決に向け、機運を高めるに十分な勝利だった。