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「なんでもっと手を出さないんだ」中谷潤人だけが気付いていた“西田凌佑の異変”…まさかの右肩脱臼「完敗やなと。あれも中谷選手の強さ」激闘ウラ側 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2025/06/09 19:00

「なんでもっと手を出さないんだ」中谷潤人だけが気付いていた“西田凌佑の異変”…まさかの右肩脱臼「完敗やなと。あれも中谷選手の強さ」激闘ウラ側<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

4ラウンド、中谷潤人の左と西田凌佑の右が交錯した瞬間。この時点で西田は右肩を痛めていた

 中谷はアウトボクシングが得意な西田のボクシングを狂わせようと先手を取った。言うまでもなく、距離を取ったボクシングは中谷も得意にしている。アウトボクシング対決でも勝てる自信はあったはずだ。そう問うと中谷は直接的な答えを避け、「西田選手を高くリスペクトして練習してきたので」と柔らかく答えた。

「これはおいしい…まくれるぞ」西田陣営の思惑

 西田は中谷の先制攻撃に面食らった。試合直後は右肩脱臼のため病院に直行、翌日の記者会見に現れた西田は少しうつむきながら次のように説明した。

「もともと武市さんと考えていたのは前に出る作戦。中谷選手が前に出てきたので、こっちもすぐに出ていこうと決めていた。だから想定内と言えば想定内ですけど、ちょっと飲まれたというのはあります」

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 腕利きの参謀、武市晃輔トレーナーは「奇襲はなくはないけど、可能性としては低めだなと思っていた」と正直に話した。中谷の先制パンチは思惑通りの効果を発揮したのである。

 それでも西田はここで圧倒されず、悪い流れを食い止めようと踏ん張った。中谷の荒っぽい攻撃にも下がらず、3回には巻き返し、WBC王者の打ち終わりを素早く突いた。得意の左ボディブローを突き上げ、シャープな左ストレートも顔面に決めた。このラウンドはジャッジ2人がIBF王者を支持し、さらに4回はジャッジ3人が西田のラウンドとした。

 西田は「ちょっとずつ自分のリズムが出てきている」と手ごたえを感じていた。武市トレーナーは「相手が飛ばしてくれていたので、この調子でいけばこれはおいしいなと。9、10回くらいを想定して、これはまくれるぞと思いました」と終盤の逆転までイメージした。

 こうしてポイント上は試合をほぼ振り出しに戻した西田だったが、このタイミングで右肩を痛めてしまう。本人曰く「どこで痛めたのかは分からない」。このあとも西田が右のブローを出し続けたため、西田の異変に周囲は気が付かなかった。武市トレーナーでさえも「なんでもっと手を出さないんだ」といぶかしみながら、まさか右肩を脱臼しているとは思わなかった。

【次ページ】 中谷潤人だけが気付いていた西田凌佑の“異変”

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