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大谷翔平の言葉で思い出す、長嶋茂雄監督が日本代表選手に語りかけたこと…侍ジャパン栗山英樹監督に受け継がれたメッセージ「野球の伝道師になれ!」
posted2025/06/07 17:00

アテネ五輪のアジア予選で日本代表の選手たちを率いた長嶋茂雄監督
text by

鷲田康Yasushi Washida
photograph by
JIJI PRESS
長嶋監督が日本代表選手に語りかけた言葉
あの夜から始まっていたのだと思った。
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表が世界一を奪回した夜。フッとそんな思いに駆られたのは大谷翔平投手の言葉からだった。
「日本だけじゃなくて韓国もそうですし、台湾や中国も、またその他の国も、もっともっと野球を大好きになってもらえるように、その一歩として優勝できたことが良かったなと思いますし、そうなってくれることを願っています」
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この言葉を聞いた瞬間に時間は20年前へと遡った。
2003年、11月7日。この日、札幌ドームで行われたアテネ五輪のアジア予選で宿敵・韓国を破った日本代表は、翌年8月にギリシャで行われる本大会への出場を決めた。その試合後に行われたささやかな祝勝会。そこでチームを率いた長嶋茂雄監督(現巨人軍終身名誉監督)が、選手たちにこう語りかけたのである。
「君たちがこれからのプロ野球を支えていく。だから大切なのはこの大会だけじゃない。これからは未来の野球の伝道師になれ!」
野球では初めてオールプロによって結成された日本代表チームだった。そのドリームチームのメンバー選考で、長嶋監督が重きを置いたのが、20代の若い選手を中心に未来に繋がるチームを作ることだった。もちろん目標は金メダルである。だが、それだけではない。若い選手が国際大会を戦い抜く中で、野球というスポーツの素晴らしさを世界に、そして次世代に伝えて欲しい。そんな願いを込めて長嶋さんは「伝道師になれ」と語りかけたのである。
このアジア予選からわずか4カ月後に長嶋監督は脳梗塞で倒れ、アテネ五輪で指揮を執ることはならなかった。しかし、このとき選手たちに語った「伝道師になれ」という言葉は、それ以後の日本代表の中にずっと生き続ける言葉となったのである。
栗山監督が選手に伝えた言葉とは…
栗山英樹監督もその言葉を継承した一人だった。