「早く上がれ！ この野郎！」ハリウッド映画に出演した無名の元力士に初対面の闘将・星野仙一がゲキ…同期の朝青龍からも「待ってるんだよ！」 

　いつしか田代は負けを肯定している自分に気づくようになる。力士にとって、勝ち越すか負け越すかは番付の昇降に直結する最重要事項。それなのに負け越しても「まあ、しゃあねえな。今場所は負けちゃったよ」と割り切れるようになっていたのだ。

　3年遅れで角界入りしてきたのちの大関、琴奨菊が同じ幕下まで番付を上げてきた頃の姿を田代はよく覚えている。負けたのが悔しくて風呂場で泣いているのを見て、 最初は「ああ、わかるよ」と共感していた。だが、次第に「熱いなあ。若いなあ」と思うようになっていった。本当は田代自身が泣く側でなければいけないはずなのに、傍観者のように見てしまっていた。

朝青龍からも「早く上がってこいよ！」

　引退後、「どうして脱線しちゃったのかなあ」と何度考えてみても、なかなか答えは見つからなかった。本気で悔しがらないことで、負けても傷つかないように自分を守ろうとしていたのだろうか。

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　そうこうしているうちに栃東や琴光喜、高見盛、そして同期の朝青龍。一緒に相撲を取ってきた人間はどんどん向こう側に行ってしまった。田代も早く来いよ！ と呼ばれているような気がした。朝青龍には実際に言われたこともある。

「早く上がってこいよ。待ってるんだよ！」と。

　スポットライトを浴びて輝く彼らを見つめながら、「俺もいつか行けるのかな」と期待していたのだが、その眩しい光はいつまで経っても彼らの背中を照らすばかりで、田代の方を向いてはくれなかった。

＜前編から続く＞

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