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大相撲PRESSBACK NUMBER
「早く上がれ! この野郎!」ハリウッド映画に出演した無名の元力士に初対面の闘将・星野仙一がゲキ…同期の朝青龍からも「待ってるんだよ!」
text by

雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by写真提供:田代良徳
posted2025/06/07 11:04
無名の元大相撲力士から転身し、ハリウッド映画にも出演した田代良徳
十両の座を懸けた幕下上位の争いは、生きるか死ぬかの容赦ない世界。野心を胸に関取の座をつかもうと番付を上げてきた力士と、十両から陥落してどうにか関取の座に戻ろうと必死な力士がひしめき、火花を散らしている。ボーダーラインのどちらにいるかで人生は大きく変わる。そこの生存競争にはある意味、賜杯をかけた争い以上の激しさがある。
インタビューで答えていた通り、田代は「当たって砕けろとか通用しない。相手をぶん殴ってでも勝たなきゃいけない」と頭では理解していた。だが、結局のところ田代はぶん殴れなかった。
性格的なものなのか、それが力士としての限界であったのか、知らず知らずのうちに尻込みしてしまう。石にかじりついてでも、と勝利に執着することができず、もう少し厳しい言い方をすれば怖気づいたのかもしれない。
星野監督のゲキ「早く上がれ! この野郎!」
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この頃、名古屋場所の宿舎に師匠と付き合いのある星野仙一が稽古見学にやってきた。星野が中日ドラゴンズの監督を務め、鉄拳制裁も辞さず「闘将」と呼ばれていた時代である。田代にとっては明大の先輩にあたる。
帰りがけにお見送りをしていると、師匠が言った。
「ああ、そうだ。星野さん、この田代も明大なんですよ」
田代は先輩から優しい激励の言葉でももらえるのかなと思ったが、星野の反応はまったく違った。
「早く上がれ! この野郎!」
初対面の第一声で怒鳴られた。田代は面食らいつつも、さすが星野さんだと感じた。ひょっとしたら球界の名将は田代に足りないハートの部分を見抜いて、焚きつけようとしてくれたのかもしれない。
闘将のゲキも受け、田代は2年後に再び幕下上位まで番付を上げた。ところが、この時も壁にはね返され、直後に怪我をして初めて休場。またしてもチャンスを逃した。「また次があるさ」と思っているうちに、無為に年月だけが過ぎていった。

