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甲子園の風BACK NUMBER
「教えすぎると、子供たちが迷うんで…」打者は全員両打ち&ノーサイン野球で“大阪府大会ベスト16”進出…ナゾの府立高を育てた監督の正体は?
text by

清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2025/06/01 17:01
2022年の秋季大阪大会でベスト16まで勝ち進んだ府立佐野高校を率いた藤井朋樹さん。ノーサインや全打者両打ちというトリッキーな戦術の狙いは何なのか
自分で考えて導き出した答えを周りとの共同作業で積み上げていく。大学でも社会に出ても、自立して行動する、ということに役立つだろう。
「そう思っていますが彼ら次第。目の前の状況を見て、問われていることとか、必要なことを判断して決める。ランナーと協力する、次の打者にフォローをしてもらう。野球はそれがいいじゃんって、いってやっています」
新チームをスタートするときに「ノーサイン野球をやるんか?」と最初に尋ねる。選手の答えはもちろん一択だ。ノーサイン野球をやりたくて佐野高に来ている。
この春からは…地元・広島の高校へ
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ところが、藤井さんはこの4月から広島に帰ることになった。採用試験を受けなおし県立高校の教諭に着任し、将来は広島から甲子園を目指す新しい夢を追いかけることになったのだ。
新学期から部長として部を率いているのが、これまで藤井さんを支えてきた29歳の名郷根亮教諭だ。
監督は新チームになるまでおかない予定だそうだ。
「彼らは監督がいなくても部を運営していける能力が備わっています。その唯一無二の野球を引き継いで磨いていきます。夏に一つでも多く勝ちたい」
名郷根部長は藤井さんにいい報告をしたい、という。
藤井さんは佐野高最後の練習試合での円陣でこう言った。
「自分が自分がということよりチームのために、というのを軸にやってください。みんなはできる力があるので。助けてくれる仲間がおるから。マネジャーも部長も保護者もOBも、チームでやっていけば大丈夫だから。頑張って、わかった?(よし、と選手の返事)一緒に野球をやってくれて、佐野高を選んでくれてありがとうございました。応援しています」
涙もなく、爽やかだった。

